鉄筋腐食はコンクリート構造物が抱える深刻な問題のひとつであり,これまでにも数多くの研究者がひび割れ発生腐食量やひび割れ幅と腐食量の関係などについて研究を行っている.しかし,様々な値が報告されており,かぶりや鉄筋径などについて体系的に整理されていないのが現状である.その原因として,環境によって腐食生成物の種類が異なることが考えられる.腐食生成物が異なれば,密度や体積膨張倍率なども異なると考えられるが,腐食生成物のそのものに着目した研究はほとんどない.そこで,昨年度の研究においては,様々な環境下においてコンクリート中の鉄筋に生じる腐食生成物を整理し,各腐食生成物の生成プロセスについて考察を行った.また,各腐食生成物の体積膨張倍率の推定を行い,腐食生成物の違いがひび割れ発生腐食量に与える影響について検討を行った. その結果,コンクリート中は高アルカリ環境下であるため,γ-FeOOHやβ-FeOOHは生成しにくいが,ひび割れが大きくなると外部環境の影響を受けて生成するようになることや,電食試験や促進試験などのように腐食速度が大きく,十分な水および塩化物イオンが存在する場合にはCaFeClO2が生成することが分かった.通常,腐食生成物の体積膨張倍率は2~3倍と言われているが,CaFeClO2の体積膨張倍率は6.9倍と非常に大きいため,電食試験や促進試験を行った場合には暴露試験などに比べて1/3倍程度の腐食量でひび割れが生じることが明らかとなった. これらの成果は,土木学会論文集に投稿し,既に掲載されている.また,以上の成果を踏まえた上で,腐食生成物の違いがひび割れ幅と腐食量の関係に与える影響についても検討を始めており,成果の一部がコンクリート工学年次論文報告集に掲載されている.さらに,腐食生成物の環境依存性についても評価し,その成果は土木学会論文集に掲載が決定している.
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