20世紀に建設された社会基盤としてのコンクリート構造物の多くは老朽化を迎えており,既存の構造物の延命化が課題となっている.既存のコンクリート構造物の外観検査では,構造物の耐震性や材料劣化の進展を推定する上で重要なひび割れなどの損傷を定量的に測ることが求められる.構造物の劣化を測るために,幅0.2mm以上のひび割れが点検の対象となる.これらを効率的に計測し,記録するためにデジタル画像を用いた点検法が開発されている.本研究では,コンクリート構造物の点検の効率化のために,コンクリート表面を分割して撮影した画像データを用いて,点検の記録や損傷の定量評価に用いる全景画像を自動合成するシステムを開発することを目的とした.このようなシステムの実現のために(1)ズームレンズを使用して撮影した画像のレンズ歪曲収差歪みを自動補正する方法の開発,(2)分割して撮影した画像の自動位置合わせ法の開発,(3)コンクリート表面の遮蔽を補間する合成法の開発,の三点を本研究の目標とした.また,実際の構造物を撮影した画像データを用いて評価実験を行った.まず,画像上の直線を利用したレンズ歪曲歪み補正法により,足場の悪い環境においてズームレンズを使用して取得した画像に対して歪み補正を自動化できることを確認した.また,視点の異なる画像を組合せた画像合成法により鋼材や金網などによる遮蔽領域を補間できることを確認した.さらに,全景画像と一部の拡大画像を組合せることにより,損傷の計測や評価が可能な合成画像を自動生成できることを確認した.
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