本研究における主な目的は,飽和度によって変化する土のせん断強度を考慮した地盤亀裂発生位置の簡易予測手法の提案を行う事である。 三次元模型地盤を用いた遠心力載荷振動実験,1G場における二次元・三次元模型地盤振動実験の観察結果から,谷埋め盛土地盤の地震中の変形は基盤(埋立て前の旧地山)形状に大きく影響を受け,大地震時には基盤法尻点をヒンジ点とするような変形が生じることがわかった。盛土地盤の変形が進むにつれて,基盤法尻点を頂点とした受動崩壊角付近にせん断帯が卓越し,せん断帯の延長線上で大きな地盤変形が生じた。また,加振時間が長くなるとすべり面の角度が低角度化し,盛土地表面の変形範囲が拡大した。 次に,切盛境界付近の谷埋め盛土地盤における釣り合い計算を行い,地盤に変位の生じない水平震度の大きさ,地表面亀裂の推定位置,盛土変形の影響範囲を推定する手法を提案した。計算パラメータとして,基盤傾斜角,地表面傾斜角,盛土厚,地下水位を用いた。その結果,安全率へのパラメータの寄与度は,地表面傾斜角,基盤傾斜角,地下水位,盛土厚の順に大きく,切盛境界付近の亀裂発生位置は基盤傾斜角,地表面傾斜角,地下水位が大きくなるほど切盛境界に近づく結果となった。 また, 2011年東北地方太平洋沖地震で被害を受けた3つの造成宅地の被害調査データをもとに,基盤傾斜角(旧地山傾斜角),地表面傾斜角,切盛境界からの距離,盛土厚の4つの因子に関して,地形因子と地震被害との関係性について統計的に分析を行った。その結果,切盛境界付近の基盤傾斜角が大きくなると家屋被害の発生位置が切盛境界に近づくこと,被害が卓越する位置が切盛境界付近と盛土側に2箇所存在すること(地表面の沈下と隆起)など,各種模型地盤実験および提案する地表面亀裂位置と盛土変形範囲の推定手法の結果を支持するような,被害分析結果が示された。
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