本研究は,河川の毎時の流量観測データを用いて,流域スケールの雨水貯留量の変動および貯留能を推定することを目的とし,水資源の有効利用や洪水・土砂災害に資する科学的知見の発信を目指している. 研究最終年度である本年度は,日本およびタイの夜間の蒸発散量が無視できない流域での雨水貯留量推定法の適用方法を提示することを計画していた.しかしながら,これに着手する前に解決すべき問題が発生したため,その解決を行った.具体的には,雨水貯留量と河川流量との間に線形関係を仮定するHino & Hasebe (1984)の手法を用いて河川流量を成分分離した上で,その関係に非線形な関係を仮定したKirchner (2009)の貯留量推定法を適用する本手法に理論的不整合があることが発覚した.このため,Kirchner (2009)の貯留量推定法を貯留量と河川流量の関係に線形関係を仮定したものに置き換え,その妥当性について短期水収支法を用いて詳細に検討した.その結果,Hino & Hasebe (1984)の手法を用いて河川流量を成分分離した場合,理論的にも水収支的にもKirchner (2009)の貯留量推定法は線形化した方が良いことが分かった(千葉・横尾,2015). 以上のように,本年度は計画にはなかった研究に着手せざるを得なかったが,雨水貯留量推定法の本質に関わる点を修正することができた.これにより,雨水貯留量推定法の完成度が増し,実用に耐えうる方法論となった.今後,流域のスケールや森林フェノロジ―によって変化する蒸発散影響の対処法を考案すれば,本手法によって流域内の雨水の貯留・流出機構を明らかにする方法論を提案できると期待される.
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