研究課題
近年,都市域での短時間強雨による深刻な被害が多発しており,都市特有の環境が影響している可能性が指摘されている.研究代表者は短時間強雨予測に用いられる雲解像気象モデルに,都市域での人工的土地被覆・人工排熱に伴う加熱の強化,高層建物による摩擦の強化を導入してきたが,さらに大気汚染に伴うエアロゾル(大気中の微粒子)の影響を加え,短時間強雨予測の精度向上を図ることが本研究の目的である.平成25年度の実績を以下にまとめる.研究項目「2.最先端の観測データを用いたモデルの検証」に対して,平成24年度に詳細な大気放射過程・雲物理過程を組み込み改良した雲解像気象モデルを,2008年東京都雑司ヶ谷付近で発生した局地的大雨に適用して検証・改良を行った.加えて研究項目「3.エアロゾル濃度と都市加熱・摩擦の増加が短時間強雨予測に与える影響評価」に対して,都市加熱が局地的大雨に与える影響について,平成24年度よりも具体的に,空調・自動車等による人工排熱量が与える影響と,アスファルト等人工的土地被覆による影響に着目して比較を行った.その結果2008年東京都での局地的大雨において,雨の降り始めでは人工的土地被覆の影響が人工排熱よりも大きく,時間がたつにつれて二つの効果の差は小さくなったことが示された.さらに研究項目「1.エアロゾルを含む都市環境を包括的に考慮した雲解像気象モデルの開発」に対して,全球エアロゾルモデルSPRINTARS (Spectral Radiation-Transport Model for Aerosol Species)の結果を取り込みエアロゾルの直接・間接効果を表現することを目指して,既往研究を整理して必要な物理過程を抽出し,それに基づくモデル改良に着手した.加えて,モデルを京都大学のスーパーコンピュータで運用可能にし,作業効率を大きく改善させた.
3: やや遅れている
遅れている点は,研究項目「1.エアロゾルを含む都市環境を包括的に考慮した雲解像気象モデルの開発」に対して,既往研究を整理し,モデルへのエアロゾルの直接・間接効果導入に着手したものの,完了には至っていないことである.それ以外については,以下のように研究が順調に進んでいる.1.開発したモデルを京都大学のスーパーコンピュータで運用可能にし,作業効率を大きく改善させた.2.研究項目「2.最先端の観測データを用いたモデルの検証」に対して,平成24年度に詳細な大気放射過程・雲物理過程を組み込み改良した雲解像気象モデルについて,2008年東京都雑司ヶ谷付近で発生した局地的大雨を対象に再現計算を行い,その検証と改良を通じて研究項目1及び3で活用可能とした.3.研究項目「3.エアロゾル濃度と都市加熱・摩擦の増加が短時間強雨予測に与える影響評価」に対して,限られた事例のみとはいえ,空調・自動車等による人工排熱量が与える影響と,アスファルト等人工的土地被覆による影響という,都市活動のより具体的な要素に踏み込んだ検討を行うことができた.
研究項目「1.エアロゾルを含む都市環境を包括的に考慮した雲解像気象モデルの開発」に対して,引き続き全球エアロゾル気候モデルSPRINTARSによるエアロゾル分布推定値を取り込み,エアロゾルが放射に与える直接効果と,凝結核及び氷晶核として雲水・雲氷の生成を助ける効果を組み込む.この項目について若干遅れがみられるため,モデル内でのエアロゾル分布の計算については既往研究を参考に簡易に取扱い,エアロゾルの直接・間接効果の組み込みに集中して研究の効率化を図る.同時に,九州大学,名古屋大学との情報交換をより一層強化し,外部からの意見を参考にした適切なモデル改良を行っていく予定である.研究項目「2.最先端の観測データを用いたモデルの検証」に対して,研究項目1で改良したモデルについて,首都圏・京阪神で顕著な被害をもたらした複数の局地的大雨を対象に検証を行う予定である.降水量・気温の検証については平成25年度までに行ってきた手法を踏襲することで効率化を図る.また,平成25年度に行った京都大学のスーパーコンピュータでの運用を効果的に活用すると同時に,そのノウハウを生かして名古屋大学のスーパーコンピュータでも運用可能にすることで,さらに研究を効率よく遂行することを目指す.研究項目「3.エアロゾル濃度と都市加熱・摩擦の増加が短時間強雨予測に与える影響評価」については,エアロゾル量を空間一様に変化させた数値実験をモデル改良と並行して行い,改良完了後のより現実的なエアロゾル量を考慮した実験と比較する予定である.
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