研究課題/領域番号 |
24760393
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
小林 健一郎 神戸大学, 都市安全研究センター, 准教授 (60420402)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 広域分布型降雨流出・洪水氾濫モデル / 領域洪水モデル / 淀川モデル / 避難行動モデル / 広域避難 |
研究概要 |
平成23年度は,広域洪水モデルとして関西(淀川)モデル,関東(利根川,荒川,多摩川等)モデル,中部(木曽三川等)モデルを完成させることを目標としていた.これに従い淀川モデルについては基本的に完成した,中部モデルは動作を確認しており,ダムデータ取得に時間がかかっている点が遅れているが、今後モデルにダム操作を組み込むことにより淀川モデルと同等になる状態になった.関東モデルについては標高,土地利用,浸透能,河道網などの基礎データの整備が終わった. 大阪市から提供を受けたGIS形式の建造物データを用いて,大阪市領域洪水モデルも構築し動作確認も行った.大規模出力データを可視化ソフト,google earthなどを用いて可視化することが可能となった. 避難行動モデルについても大阪市北区・中央区を対象としたマルチエージェント法によるモデルが完成した.広域の道路網を信号をも考慮しながらモデル化し,特に極端洪水の際の広域避難について検討した. 「次世代スーパーコンピュータ戦略プログラム」を通じて,気象研究所より高解像アンサンブル気象予測データが提供されている.これを用いて,アンサンブル洪水予測を実施した.2012年台風12号,宇治の豪雨などを対象としているが,予測事例ができつつある. また,OpenMP,MPIを用いた並列化を淀川モデルに施し,購入したワークステーションで動作確認を行った.スレッド並列では14コアを用いた計算で,これまでシミュレーション1時間を行うのに5分30秒程度必要だった計算が1分30秒程度にまで短縮できた.大幅な高速化が実現された.このモデルは京にも試験的に移植し,モデルが作動することを確認した. 十分な成果が出た年度であり,平成24年度はこの成果を論文投稿していく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在まで研究はおおむね順調に進展してきていると言える.年始に予定したように,淀川モデル,中部(木曽3川等)モデル,関東(利根川,多摩川,荒川等)モデルについては完成の目途がついてきた.これらの広域モデルについては,最低でも一般に公開されている範囲のモデル入力データの整備は完了した.河道断面など特殊データの入手に関しては国・自治体との信頼関係に基づいた地道なやり取りが必要であるため,この点が若干の遅れに繋がっている. 領域洪水モデルについても大阪市を対象に,淀川モデルをネスティングするような形でモデル開発を進め,動作確認をした.これらの高密な出力データをAVSやgoogle earthを用いて静止画・動画で可視化することもできるようになった. 避難行動モデルについてもマルチエージェント法に基づいて,大阪市北区と中央区の間での広域避難行動を検討することが可能なモデルを構築した.特に極端な洪水の際の避難について検討している.3次元的に避難の様子を可視化することも可能となった.この点に関する進捗も概ね予定通りである. 気象研究所から提供される高解像アンサンブル気象予測データを用いて,アンサンブル洪水予測も実施しており,これも概ね予定通りである. 特筆すべきは,OpenMP,MPIを用いた並列化を淀川モデルに施し,科研費により購入したワークステーションで動作確認を行い,大幅な高速化が実現可能であることがわかった.広域モデルは神戸のスパコン京にも試験的に移植し,モデルが作動することも確認できている.要素技術の開発が順調に進んでおり,成果を更に加速する素地ができつつある.
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今後の研究の推進方策 |
広域,特に3大都市圏を対象にしているため,取り扱うデータ量が膨大である.一般にWeb上で整備されているデータや,民間企業が包括的に販売しているデータを用いたモデル構築の工程は概ね順調に進んできた.モデルプログラムの基礎部分は完成しているため,整備したデータをモデルの入力とすれば,モデルは動作する.モデルの完成度を挙げるために加えて必要なのは,河川管理,流域管理データであり,これらのデータは国・自治体が長い時間をかけて整備してきたものである.これらのデータは大きな労力を欠けて計測されてきたものであり,収集するためには一般的には行政との信頼関係が期待される.今後はこの関係醸成にさらに務めデータ収集を促進するとともに,大型プロジェクト(例えば気候変動プロジェクト)の枠組みを利用して,一括的なデータ収集を加速させ,モデル開発の速度を高めていく. また,平成23年度はOpenMP, MPIによるモデル並列化が実施された.現在の所、OpenMPによるスレッド並列ではシミュレーション時間1時間の計算の速度を3.7倍に高めることに成功している.一方,MPI並列ではデータ通信の部分にいまだ解決すべき点があることなどもあり,必ずしも高速化が実現できていない.モデル規模が大きくなればなるほどMPIの有効性が高まることが予測されるため,今後はこの点に着目して改善を進めていく.また,MPIの有効性が高まるほど,スパコン京の利用意義が高まるため(一般には計算規模が大きくなるほど,CPUが多い京の利用意義があがると考えられる),この点について改善していく.
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次年度の研究費の使用計画 |
消耗品としてソフトウェアのライセンス料(Tecplot, ArcGIS, AVS, ウィルスバスター等),保守料,地図データ購入費などに利用する.国内旅費としては土木学会,日本計算工学会,水文水資源学会,自然災害学会,GIS学会等の年次講演会に参加するための経費を予定している.国際会議については中国で開催されるIAHR主催の国際学会に参加する.また,国際ジャーナル及び土木学会論文集の投稿料なども予定している.
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