研究課題/領域番号 |
24760397
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
横田 雅紀 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60432861)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 海面抵抗係数 / データ同化 / 波浪推算 |
研究概要 |
4次元変分法が組み込まれた波浪推算モデル(ADWAM)を実海域に適用し、全国港湾海洋波浪情報網(ナウファス)により2時間間隔で提供されている有義波高を観測値として、風速別の海面抵抗係数を推定した。観測地点は強風の影響を受けて発生した波が到達しやすいと考えらる太平洋側の地点のうち、本検討で設定した計算格子間隔0.5度であっても表現が容易であり、地形による遮蔽の影響が少ないと想定される潮岬を対象とした。データ同化の対象期間については、2004年から2008年の5年間について、気象庁のベストトラックデータを参照し、波浪観測地点である潮岬に比較的大きい台風が接近する期間とした。データ同化で推定される海面抵抗係数は使用する現地観測データの精度に依存するため、外力条件である気象データや観測波高に誤差が多く含まれる場合には解が不安定になり、推定結果を得ることができないことがある。そこで、海面抵抗係数に従来の提案式を用いた波浪推算結果を確認し、波浪観測結果を概ね再現できている期間を対象として海面抵抗係数の推定を実施することとした。その結果、異なる初期条件から推定を開始し、同程度の推定結果を得ることができた。得られた海面抵抗係数は従来の提案式とも近い値を示しており、適切な値が推定できたものといえる。また、当該擾乱事例では、波浪観測地点で発生していた風速が10m/s程度であったにもかかわらず、観測地点では発生していなかった風速30m/s程度の海面抵抗係数まで推定することができた。このことから、観測地点で強風が発生していなくても、強風で発生した波浪が伝播し、観測地点で観測されれば、本データ手法により、強風条件での海面抵抗係数を推定可能であることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は当該助成による研究を開始する前の時点で、4次元変分法が組み込まれた波浪推算モデルを改良することにより、現地での測定が困難な超強風条件における海面抵抗係数を暴風域外で観測された波浪観測データから逆推定可能なデータ同化システムを開発しており、このデータ同化システムにより推定される海面抵抗係数の妥当性については数値実験により確認済みである。本研究はこれまでの研究を継続し、本データ同化システムを実海域に適用することで強風条件における海面抵抗係数を推定するものであるため利用環境を整備する手間は無く、直ちに現地データの適用に着手することが可能であった。使用する波浪の観測データについては既に全国港湾海洋波浪情報網(ナウファス)により、長期間にわたり観測されているデータを活用するため、新たに観測を実施する必要がない。研究の遂行にあたっては、大学院生1名および技術職員の協力を得ることができた。 平成24年度は、過去5年間について擾乱事例を抽出し、本データ同化システムによる海面抵抗係数の推定を行った結果、一擾乱について、妥当な推定結果を得ることができた。当該年度の研究計画は、データ同化の現地適用の試行および、妥当な推定結果が得られる計算条件を明らかにすることであり、おおむね順調に進展しているものといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、平成24年度に明らかにした安定な推定結果が得られる計算条件のもとで、強風別の海面抵抗係数について推定を行う。推定される海面抵抗係数が不安定になり、妥当な推定結果が得られない擾乱ケースに対しては、一度の計算でデータ同化を実施する期間を出来る限り長期間とすることで、各時刻の観測データが有する誤差の影響を相対的に小さくするとともに、同化期間中に対象領域で多様な風速を網羅できるようにする予定である。 次いで、得られた海面抵抗係数の風速別分布について、既往の研究事例との比較を行うほか、データ同化で利用していない期間や観測地点を対象として、得られた係数による波浪予測計算を行い、観測値の再現性を確認することで、妥当性の検証を行う計画である。ただし、データ同化により推定される海面抵抗係数は、擾乱ケースごとに異なる分布となることも考えられる。そこで平成24年度に抽出した気象擾乱について、可能な限り多くのケースを対象にデータ同化による海面抵抗係数の推定を実施することで推定された海面抵抗係数の普遍性を高めるとともに、得られた風速別の海面抵抗係数については、統計的に整理することで、最適な海面抵抗係数の設定について検討する計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、海面抵抗係数を推定するデータ同化システムの現地適用に際し、大量の情報を計算機内に記憶する必要があるデータ同化について、計算条件を変化させながら検討を行ったため、記憶容量を十分に有し、かつ計算性能に優れた新規のワークステーションを申請者用および研究に協力する大学院生用に計2台購入した。平成25年度は、平成24年度に得られた推定結果を整理するため、研究に協力する大学院生用に、解析用PCおよび解析用ソフトウェアライセンスを購入する予定である。得られた研究成果については、国内学会1件および国際学会2件で発表を予定しており、これらについての論文投稿料、印刷費および旅費が必要である。また、平成25年度の研究では、できるだけ多くの擾乱条件についてデータ同化の計算を実施する必要があることから、気象データを追加購入するとともに、膨大な計算結果を保管するためのハードディスクを購入する計画である。
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