研究課題/領域番号 |
24760401
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
小田 僚子 千葉工業大学, 工学部, 助教 (50553195)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 大気境界層 / 雲 / 都市 / カメラ / ステレオ観測 |
研究概要 |
平成24年度は,東京湾奥部の稲毛ヨットハーバー(千葉県千葉市美浜区)及び東京工業大学(東京都目黒区大岡山)に屋外カメラを3つずつ設置し,1分サンプリングで東京湾上空および都心部上空の大気の連続測定を開始した.画像データはインターネットを介し,申請者の研究室内PCにて取得している. 本研究の目的の一つである雲の発生場所・高さの推定を試みた結果,既存のドップラーライダーにより観測された結果と整合する値が得られ,ステレオ観測による雲の消長プロセスを把握できる可能性が示された.さらに,カメラを複数地点に設置することで,複雑に変化する上空大気の流れを定量的に評価することが可能となった.この結果は,既存の地上気象観測網からでは評価できず,本観測が局地的豪雨発生の予測・解明に資する研究であることが確認された.これらの結果は,2013年度気象学会春季大会において発表する予定である. また,都心部上空を撮影した画像により,大気境界層が混濁している様子がはっきりと確認された.環境省および国立環境研究所が東京(新宿)に設置しているライダーにより得られるエアロゾル量との比較により,大気のより混濁している日はエアロゾル量も多く観測されていることが確認された.風系場に着目すると,淀みの濃い日は南東風が卓越していたのに対し,薄い日は北西風であった.都心部の南東方向には東京湾が存在しているため,海域からの海塩粒子が流入したこと,また,沿岸部に立地する工場や自動車からの人為起源エアロゾルが都心部上空を覆った可能性が考えられる.本観測により,都市大気境界層内の混濁度は実際の大気中エアロゾル量変動を反映しており,その度合は風系場に大きく依存し,都心部では風が海域から流入する場合に大気が混濁しやすいことが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
東京湾に発達する雲の消長プロセスおよび都心部の大気混濁度の時間変化を捉える目的で,東京湾沿岸の2地点に屋外ネットワークカメラを設置した.雲の急激な発達を捉えるため,1分という短いサンプリング間隔で24時間常時連続撮影すること,およびリアルタイムで監視するため,ネットワーク環境の整備等ハード面の構築が複雑であったが,晩夏に大気上空カメラ画像の自動取得システムを構築することができた. ステレオ観測の結果,雲の発生位置・高度の推定が可能であることを確認した.さらに,都心部の大気境界層の時間変化を捉え,混濁の度合が実際のエアロゾル量を反映していること,風向変化と密接に関係していることを示した.これらはいずれもカメラによる連続撮影ができなければ把握が難しいものであり,自動連続観測システムを構築できた意義は大きい. 屋外カメラは上記2地点以外にも房総半島の木更津市役所,三浦半島の防衛大学校にも設置する予定であり,現在稼働に向けた準備を進めている.また,遠赤外線カメラによる夜間の雲撮影についても撮影ノウハウを習得したため,東京工業大学への設置準備を行っている.本学所有のドップラーライダーは,昨夏に初期不良による修理のため昨年度中使用することができなかったが,年明けに戻り,現在は東京湾に近い本学キャンパス内にて常時観測を開始している. 上述の通り,観測体制はほぼ整ったため,2年目は夏季における積乱雲の消長プロセスの把握が期待できる状況である.
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今後の研究の推進方策 |
屋外カメラの設置地点の増設(防衛大学校,木更津市役所)を完了し,東京湾を囲む4地点で雲のステレオ観測を開始する.既に設置している2地点(稲毛ヨットハーバー・東京工業大学)同様,一か所につき3台のカメラにより,1分サンプリングで常時連続観測を実施する.これにより,東京湾上空のほぼ全域をカバーできることとなり,都心に向かい発達する雲の消長プロセスを捉える.本観測システムに加え,東京工業大学に設置した遠赤外線カメラにより,局地的豪雨発生日前後の大気の流れを,夜間も踏まえて検討していく.その際,申請者による過去の研究で統計的に評価された東京湾SSTの季節・日変化の特徴を踏まえ,東京湾SSTの時空間的な局所性が雲の生成・発達に及ぼす影響についても考察する.なお,局地的豪雨などのイベントを捉えるだけではなく,衛星ラピッドスキャンデータや既存のライダー結果と比較することで,ステレオ観測による孤立雲の位置・高度推定結果の精度を高める手法を検討する.また,東京湾沿岸に設置した本学所有のドップラーライダーにより,大気下層(40~500m)の風の鉛直プロファイルを常時観測することで,雲の発生・発達と下層風との関連性についても検討する. 平成24年度に引き続き大気混濁度変化にも着目し,都心部のエアロゾル量変化と局地的豪雨発生の因果関係について考察する.
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次年度の研究費の使用計画 |
屋外カメラの設置に最低限必要な機器(屋外ネットワークカメラ,PoE対応スイッチングハブ,遠赤外線カメラ本体)は平成24年度に概ね用意できたため,次年度の研究費はそれらの設置・メンテナンス,およびデータバックアップ用のハード機器購入の費用として主に使用していく予定である.具体的には,遠赤外線カメラのハウジング作成費,大容量HDDの購入や観測場所へ赴く際の交通費(レンタカー代)として使用する. また,研究成果の公表のための旅費や投稿料として使用予定である.
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