研究課題/領域番号 |
24760401
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
小田 僚子 千葉工業大学, 工学部, 助教 (50553195)
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キーワード | 大気境界層 / 積乱雲 / 都市 / カメラ / ステレオ観測 |
研究概要 |
平成24年度の稲毛ヨットハーバー(千葉県千葉市),東京工業大学(東京都目黒区)に加え,平成25年度は木更津市役所(千葉県木更津市),防衛大学校(神奈川県横須賀市)にも屋外ネットワーク可視カメラを3台ずつ設置した.これにより,計12台のカメラから東京湾上空および都心部上空の大気の連続観測を行う体制が整った. 平成25年夏季に首都圏で大雨をもたらした積乱雲に着目し,発生場所・発達高度をカメラ画像解析により推定したところ,推定位置は衛星画像で認められる“かなとこ雲”の存在場所とほぼ等しく,発達高度は高層気象台によるラジオゾンデ観測結果から得られた温位・風向風速鉛直分布から推定される対流圏界面高度とおおよそ合致したことから,本観測手法に基づく推定方法の有用性を確認することができた.なお,本観測からは,対象の積乱雲が30分間という短い時間で13km付近まで急速に発達している様子が捉えられている.このように,数地点に屋外カメラを設置することで雲のステレオ観測が可能となり,成長の初期段階から積乱雲の位置を推定し,成長速度を把握することで,局地的大雨発生場所や時間を予測できる可能性が示された.また,カメラ画像から判断される大気混濁度と地上付近の浮遊粒子状物質(SPM)との関係性に着目し,大気が混濁しやすい環境場について検証した結果,大気混濁度は実際の大気中SPM濃度変動と対応しており,非常に大気が混濁している状態(見通しが約3km程度)ではSPM濃度が50μg m-3に達していることが確認された. 以上の研究成果は,“常時モニタリング観測体制”を構築したからこそ得られた結果であり,本観測システムが都市上空大気の実態を把握する上で重要な役割を担うものであるといえる.これらの結果は,2014年度気象学会春季大会において発表する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度中に東京湾沿岸の4地点に屋外ネットワーク可視カメラの設置を完了した.本研究の目的は,①積乱雲発達減衰プロセスの立体構造把握,②大気境界層高度変化の定量評価,③東京湾周辺の風系場の把握,の大きく分けて3点により構成されている.現在までに,平成25年夏季に発生した局地的大雨につながる積乱雲について,成長の初期段階から積乱雲の発達位置ならびに成長速度を把握し,本観測手法から局地的大雨発生場所や時間を予測できる可能性を示し,①の目的に関して順調に観測が行われていると評価できる.また,同システムから首都圏の大気境界層内における混濁度(浮遊粒子状物質濃度)の日変化を捉え,その濃度変化から大気境界層高度変動の定量的把握を実施できる段階にあると評価する(目的②).さらに,平成25年度は夏季の約2か月にわたり東京湾沿岸部にドップラーライダーを設置し海風侵入挙動を把握した(目的③). 上述の通り,現在までに目的を達成するための観測体制は整い,興味深いデータも得られたことから,最終年度のまとめに向けたさらなる解析が期待できる状況であるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は,常時モニタリングから積乱雲の発生状況(イベント)が捉えられるようこれまでの観測体制(東京湾を囲む4地点で一か所につき3台のカメラにより1分サンプリングで上空大気の常時連続観測を実施)を維持するとともに,2年目に観測した結果についてさらなる解析・考察を加えていく予定である. 申請者による過去の研究で統計的に評価された東京湾海表面温度(SST)の季節・日変化の特徴を踏まえ東京湾SSTの時空間的な局所性が雲の生成・発達に及ぼす影響についての考察を加えること,赤外線カメラ画像から局地的大雨発生日前後の大気の流れを夜間も踏まえて検討すること,東京湾沿岸に設置したドップラーライダー観測結果から雲の発生・発達と下層風との関連性について検討することなど,積乱雲の消長プロセスだけではなく,積乱雲発生とその他の気象・海象との関連性について考察を深める.また,大気の混濁具合から大気境界層の高度推定を行う.
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