研究実績の概要 |
本研究の目的は,輸送拠点の形成・強化と産業・人口集積を同時に扱う理論を構築することである.この目的を達成するために,大きく3つのphaseに分けて研究を実施する:[phase 1] 新経済地理学の枠組みに輸送規模の経済を導入した新たな経済モデル(基本モデル)を開発する.そして,Akamatsu et al. (2012) が提案した分岐解析手法を用いて,そのモデルの一般特性を明らかにする.[phase 2] 基本モデルを輸送費用構造の異なる複数産業の枠組みに拡張する.そして,理論・数値解析を併用し,その基本特性を明らかにする.その結果から,階層的な産業立地・輸送パターンが形成されるメカニズムを解明する.[phase 3] phase 2 の拡張モデルに確率的要因を導入した大規模な集積経済モデルを構築する.そして,安定均衡解の特性を網羅的な数値実験により調べ,階層的かつべき乗則に従う都市・輸送システムが創発するメカニズムを明らかにする. 最終年度は,非常に多くの地域・産業が存在する新経済地理学モデルを構築し,系統的な数値計算を行った.その結果,複数の人口集積地が形成され(i.e., Tabuchi and Thisse (2011, JUE), Ikeda et al. (2012, JEDC), Akamatsu et al. (2012, JEDC) と同様の period doubling bifurcationが発生する),かつ階層的な産業立地パターンを表現できる新経済地理学モデルにおいて集積・分散特性の異なる十分多様な産業が存在する場合,べき乗則に従う都市システムが創発することを明らかにした.さらに,それらの集積パターンが,Hsu, Mori, and Smith (2014) の実証研究で得られた知見と整合していることも確認した.
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