近年の日本の課題として,過疎化,高齢化,病院や消防署の統廃合等が挙げられ,その結果として都会と地方の格差拡大が懸念される.一方,人口減少時代に突入し,予算面の厳しさは増しており,バランスを持った上での社会変化への対応が急務となっている.本研究は,その一つとして,道路整備が遅れており,高齢化が深刻な地方都市や中山間地に着目したもので,道路整備状況と救急車の所要時間の関係を明確化し,救急救命の観点上,必要な道路サービスレベルを定量的に示すことを目指したものである. 最終年度の研究成果として,対象路線を走行し計測できた救急車の緊急車両走行軌跡データと,過去の研究で得ていた一般車の走行データを比較し,次の知見を得た.幅員に関しては,5mまでは一般車の方が走行速度は高いが,5m以上では救急車の方が高かった.また曲線半径は20mまでは一般車の方が走行速度は高いが,20m以上では救急車の方が高い結果であった. 次に,道路サービスレベルの評価方法について検討やヒアリング調査を行った結果,患者の症状や搬送距離,最寄りの救急車の出動の有無等,より大きな影響を及ぼす要因が多々あり,これらの要因を考慮し,まず全体の評価手法を構築する必要があると考えられたため,救急救命体制の評価方法の構築を試みた.救急救命体制評価方法の構築については,評価方法の全体像を検討し,3段階の1段階目として救急救命搬送需要予測手法を構築した.また2段階目として救急救命搬送所要時間算定手法を構築した. 今後の研究予定として,3段階目である救急救命搬送効果算定手法を構築する予定である.さらにこれら3つの手法を用いて,適当な都市をケーススタディにシミュレーションを行い,妥当性の検証や社会還元を図る予定である.
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