本研究では、生活道路の無信号交差点における視覚障害者の安心で安全な横断環境の整備を目指し、近年普及が進む交通安全施設の活用に着目した支援手法を構築することを目的として、当事者を対象とした歩行実験を実施し、実態観察と主観評価に基づいて横断支援の可能性を評価した。 平成24年度では、評価対象としてドットラインとカラー舗装を取り上げ、実道路空間に整備されている交差点で歩行実験を行い、視覚障害者の横断状況を撮影した画像の解析により歩行パフォーマンスを分析するとともに、当事者の主観的応答からも支援性を考察した。その結果、ドットラインの利用によって、ロービジョン者の歩行軌跡が安定し方向定位も容易になることが分かり、実験参加者から有用性が高く評価されたが、触覚的手がかりが重要となる全盲者には支援とならないことが示された。また、国内において普及率の高いベンガラ色(赤茶系統)のカラー舗装は、ロービジョン者・全盲者双方において実用には至らないことが確認された。 これを受け平成25年度では、上記実験参加者に対するヒアリング結果から支援性を高めるための施設仕様条件を整理し、模擬的な屋外道路空間に敷設した改良型の施設に対して同様の歩行実験を実施した。その結果、ドットラインについては適切なパターンで突起を設けることで全盲者に対しても横断軌跡を安定させることができ、カラー舗装についてはアスファルト路面との輝度比を改善することでロービジョン者の心理的負荷を軽減する効果が発現した。 平成26年度では、主観的評価について多角的な分析を行うとともに、学会、研究会における意見交換を通じて、視覚障害者以外の道路利用者への配慮や、施設の本来の目的である安全性確保の観点からの評価の必要といった課題が提起され、本研究の成果の実道路空間への実現のための検討の方向性を見出すに至った。
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