研究課題/領域番号 |
24760426
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
石川 奈緒 岩手大学, 工学部, 助教 (10574121)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | セシウム / ストロンチウム / 下水焼却灰 / 埋設処分 |
研究概要 |
福島第一原子力発電所の事故に伴って環境中へ放出した放射性物質は、下水汚泥さらに下水焼却灰に高濃度で濃縮している。放射性物質を含む焼却灰は後に最終処分場へ埋設されるが、処分場から環境中への放射性物質の拡散が懸念されている。本研究の目的は、下水焼却灰からの放射性物質の溶出特性を把握するとともに、埋設処分した後に溶出した放射性物質を吸着・保持するバリア材として効果的な鉱物資材を選定し、環境への放射性物質の拡散を防止する手法を確立することである。本年度は、下水焼却灰からのセシウムやストロンチウムの溶出特性を把握し、最終処分場に埋設された焼却灰から浸出水への溶出量を推定することを目的とし2つの実験を実施した。 まず、焼却灰および処分場浸出液の元素分析を行った。下水焼却灰は岩手県盛岡市の浄化センターから定期的に採取し、CsやSr、主要元素類について分析を行った。また、最終処分場の浸出液は、春、夏、冬の3回試料採取を行い、pHや溶存有機物量、懸濁物質量等の液性に関する項目とともに、CsやSrその他主要元素濃度を測定し、浸出液に関する基礎的なデータを得た。 次に、下水焼却灰からの対象元素の溶出量を把握するため、バッチ法による溶出実験を行った。最終処分場からの浸出液はアルカリ性であるため、超純水にNaOH、KOH、またはCa(OH)2を加えpHを数段階変化させた液に焼却灰を接触させることにより、焼却灰からCs、Srの溶出率を測定した。その結果、CsはpHとともに溶出率は増加するが、SrはpHの上昇に伴い溶出率が減少した。また、Srの場合、溶出液にNaOH、KOH、またはCa(OH)2のどの液を用いても溶出率は変化しなかったが、Csの場合、溶出液にKOHを用いた場合、NaOHを用いた場合よりも溶出率は約4倍高かった。したがって、溶出率は浸出液中に含まれる元素組成にも影響を受けることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、下水焼却灰からの放射性物質の溶出特性を把握するとともに、埋設処分した後に焼却灰から溶出した放射性物質を吸着・保持するバリア材として効果的な鉱物資材を選定し、環境への放射性物質の拡散を防止する手法を確立することである。本年度で行う予定であった、「焼却灰および処分場浸出液の元素分析」および「焼却灰の溶出試験(バッチ法)」について成果を出しており、次年度に行う「隔離層に利用する鉱物資材の吸着・脱離実験(バッチ法)」、「小型の模擬処分場を用いた浸出液への対象元素溶出実験」についての準備が進められている。したがって、研究の目的に対して順調に進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで得た実験結果をもとに、以下の二点について実験を行う予定である。 まず、数種類の鉱物資材についてCsおよびSrの吸着能および保持能力を実験により明らかにし、隔離層に用いる資材としての有用性を検討する。実験に用いる資材はベントナイト、イライト、ゼオライト、カオリナイト等安価で大量に利用できるものとする。 超純水に対象元素を溶解した試験液と鉱物資材をフラスコ内で混合し、吸着平衡時の液相中の対象元素濃度を測定することで資材への吸着量を把握する(吸着実験)。さらに、対象元素を吸着した固相試料と水を混合し、液相部分の元素濃度を測定することで、一度吸着した元素の脱離量を把握し、各資材において対象元素の保持可能量を測定する(脱離実験)。 次に、焼却灰を埋設した小型の模擬処分場を作成し、降雨により処分場下部より排出される浸出水をフラクションコレクターを用いて一定時間ごとに採取し、浸出液中の対象元素濃度をICP-OESおよびICP-MSにより測定する。模擬処分場の隔離層には、先に行った実験により有用であると考えられた資材を用いる。 最後に、これまでの実験成果をとりまとめ、放射性CsおよびSrを含む焼却灰が処分場へ埋設された際、環境への放射性物質拡散の防止に役立てるため、焼却灰から浸出水へ溶出する放射性物質濃度の推定および隔離層による放射性物質の溶出防護機能の評価を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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