福島第一原子力発電所の事故に伴って環境中へ放出した放射性物質の一部は下水焼却灰に濃縮している。これら廃棄物が埋め立てられた処分場から環境への放射性物質拡散が懸念される。本研究の目的は、下水焼却灰からの放射性物質の溶出特性の把握に加え、溶出した放射性物質を吸着・保持するのに効果的な鉱物資材を選定し、環境への放射性物質の拡散防止手法を確立することである。対象元素はCsとSrとした。 まず、下水焼却灰からのCs、Srの溶出実験を行った。中性からアルカリ性では、CsはpHとともに溶出率は増加し、SrはpHの上昇に伴い溶出率が減少した。また、溶出率は浸出液の元素組成にも影響を受けることが示された。 次に、4種の鉱物資材(ゼオライト、イライト(二種類)、長石)を用い、Cs、Srの収着実験を行った。ゼオライト、イライトは液相中のCs、Srをほぼ100%収着したが、長石は最大80%程度だった。次にpH 6-11 の範囲でpHの影響を確認した。Csの場合、どの鉱物においてもpHの上昇とともに収着率は減少し、ゼオライトとイライトはpH 11で収着率80%程度であるのに対し、長石は30%まで減少した。Srでは、pHの上昇とともにどの鉱物もSr 収着率は増加した。さらに、液相に浸出水を用いて収着実験を行った場合、どの鉱物へもSrの収着が確認できなかった。これは、浸出水中に多く含まれるCa等との競合によると考えられる。 さらに、Cs を収着させた各鉱物について、浸出液を接触混合させ、浸出水へ脱離する量を求めた。ゼオライトでは浸出水へのCsの脱離は見られず、イライトは収着した分の3-6割が脱離した。長石では脱離は見られないものの、収着量自体が他の鉱物と比較して少ない。したがって、最終処分場の隔離層として、Csの収着・保持能において、4種の鉱物資材ではゼオライトが適していることが示された。今後はSrの収着・保持に有効な資材の検討や、Csに対する他の鉱物の検討、保持能の評価方法の確立を目指す必要がある。
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