研究課題/領域番号 |
24760427
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小熊 久美子 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (00361527)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 紫外線 / 消毒 / 浄水処理 / 発光ダイオード |
研究概要 |
紫外発光ダイオード(UV-LED)を用いて水を飲用直前に消毒するPoint-of-Use型浄水装置のプロトタイプを作成した。小型、簡易操作、水銀フリーといったUV-LEDの特性を生かすよう装置設計を工夫し、発光ピーク波長が265nm、280nm、310nmの三種のUV-LEDを用いて、回分式と通水式の二種のモジュールを作成した。回分式実験では、10mm×10mmの正方形基盤上にUV-LED素子を3列×3個で配置し、シャーレ内試料に紫外線を照射した。通水式実験では、12mm×135mmの長方形基盤にUV-LED素子を1列×10個配列したものを三波長それぞれに作成し、それらを三角柱状に組み合わせて円筒管内に設置し、円筒内に試料を通水して紫外線を照射した。微生物として、大腸菌IFO3301および大腸菌ファージQβを用いた。 回分式実験の結果、不活化速度定数は大腸菌、Qβとも280nm、265nm、310nmの順に大きかった。遺伝子の吸光スペクトルは265nm、 280nmの順に高いが、本研究で用いたUV-LEDの出力は280nm、265nmの順に大きく、そのため280nmの不活化速度が最大になったと考えられた。すなわち、浄水装置にUV-LEDを利用するに当たっては、波長よりも出力が制約因子になることが示唆された。また、本研究で用いた実験条件下では大腸菌の光回復は無視できるレベルであることを確認した。 通水式実験では、回分式に比べて不活化効率が低下した。また、回分式実験では生残率が対数直線的に減少したが、通水式実験では3log不活化付近でテーリング現象を生じた。装置内の水理条件を模擬した数理モデルを作成しシミュレーションを行った結果、通水式実験で観察されたテーリングの原因は装置内に滞留部分を生じたためと推定され、流動条件が装置設計上重要であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画通り、紫外発光ダイオード(UV-LED)を用いた小型浄水装置のプロトタイプを作成し、その不活化効果を実験的に明らかにすることができた。UV-LEDの選定にあたり、発光ピーク波長が265nm、280nm、310nmの三種を比較し、研究の独自性を高めることができた。現在市販されているUV-LED素子では、波長による不活化機構の違いよりもLED出力の大小が不活化効果を決定する最大の因子であることを明らかにし、今後の装置設計に有用な知見を得た。また、回分式と通水式の二種のモジュールを作成し、それらの不活化効率を比較することで、実用化が望まれる通水式装置の特徴と課題を明らかにすることができた。さらに、反応装置内の水の流れを数理モデルでシミュレートし、通水式装置では流動条件が不活化効率に大きく影響することを示し、今後の装置設計に資する基礎的知見を得ることができた。 研究成果を「深紫外発光ダイオード(UV-LED)を利用した水消毒装置の検討」(喜多諒, 小熊久美子, 酒井宏治, 村上道夫, 滝沢智)と題して日本水環境学会年会(大阪工業大学、2013年3月)で発表し、関連分野の研究者と最新の知見を交換することができた。なお、当該の発表は優秀学生ポスター発表賞(ライオン賞)を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
日進月歩のUV-LED技術について、引き続き精力的に文献調査・市場調査を行う。特に、国内外の学会等において紫外線水処理技術の最新の知見を随時収集し、研究計画に反映する。 H24年度の研究成果を発展させ、H25年度は、3種の波長を組み合わせて照射した場合の消毒効果への影響について、詳細に検討する。多波長光の生体影響については生物学・医学分野での知見が多いため、分野横断的な文献・知見の調査を通じて波長組み合わせの効果を論じる。 また、H24年度の通水式実験において、装置内の流動条件が不活化効率に大きく影響することが判明したことから、装置の形状や通水方法の改良を行う。小型でレイアウトの自由度が高いというUV-LEDの特性を生かし、既存の水銀灯では対応できない実用化を見据えた装置設計を目指す。設計方針として、まず装置内の紫外線照射量分布を表現する数値モデルを開発し、流動条件を考慮したシミュレーションを通じて、装置形状の最適化を試みる。シミュレーション結果を踏まえて装置を大幅に改良し、あるいは新規に作成し、H24年度に作成した初代装置と不活化効率を比較する。 研究成果について、国内外の学会発表および学術誌への論文投稿を行う。学会発表の場として、国際紫外線協会世界大会(2013年9月、米国ラスベガス)と日本水環境学会年会(2014年3月、東北大学)を想定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
H24年度の研究成果を踏まえて新装置を設計する。新装置では、より「小型」で「高効率」であることを追求する。新装置は初代装置を改良するか新規に作成するものとし、必要に応じてUV-LED素子を追加購入する。新装置作成に要する費用として、60万円を想定している。また、微生物実験に必要な消耗品類(ガラス・プラスチック器具類、培地、試薬など)として20万円を想定している。 関連研究者との知見交換と情報収集のため、土木学会環境フォーラム(2013年11月、札幌市、北海道大学)への出張旅費を計上する。また、成果発表として、国際紫外線協会世界大会(2013年9月、米国ラスベガス)と日本水環境学会年会(2014年3月、仙台市、東北大学)への出張旅費を計上する。これらの出張旅費として40万円を想定している。
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