水道水の微生物リスク管理手法の高度化に向けて,病原微生物が引き起こす様々な健康影響を包括して評価可能な指標である障害調整生存年数(DALYs)に着目した。そして主要な水系感染症原因菌であり,下痢症の他にギラン・バレー症候群(GBS)などの続発症を引き起こすことが知られているCampylobacter jejuniをDALYsの評価対象とした。本研究ではDALYs評価において必要な情報として、環境水中のC. jejuni濃度及び不確実性が高い因子としてGBS発症率を取り上げた。まず水道原水となる河川水に対してC. jejuni濃度を調査し,次に環境水中C. jejuni に対してGBS発症に関連するリポオリゴ糖(LOS)構造の保有状況を把握し,GBS発症リスクの有無について検討した。 環境水中のC. jejuniに適用可能な定量方法として,ボルトン培地とプレストン培地による培養を組み合わせた培養方法(二段階増菌培養)とPCRによる検出とMPNによる統計学的手法を組み合わせたMPN-PCR法を適用し,河川水のC. jejuniの存在実態を調査した。その結果,0.011~1.5 MPN/Lの濃度範囲で変動し、夏季,冬季に高い濃度上昇が見られた。 メンブレンフィルター分離方法で得られた河川水中C. jejuni分離菌株76株に対して,温水-フェノール法でLOSを抽出し,液体クロマトグラフ・タンデム質量分析計(LC/MS/MS(リニアイオントラップ型))を用いて,シアル酸を示すシグナルであるm/z=290(ネガティブモード)をターゲットとし,シアル酸含有LOSの存在を確認した。シアル酸含有LOSを保有している菌株は9株確認され,これらをGBS発症関連菌株であると推定した。以上から,河川水を水道原水とした場合,C. jejuniによるGBS発症のリスクが存在すると判断した。
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