研究課題/領域番号 |
24760439
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 国土技術政策総合研究所 |
研究代表者 |
上村 了美 国土技術政策総合研究所, 沿岸海洋・防災研究部, 研究官 (10450785)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 環境生態 / 海洋生物 / メタ個体群 |
研究概要 |
当該年度においては、ムラサキイガイおよびホソウミニナの遺伝子マーカーの探索を行った。ムラサキイガイについては、海外の報告(Molecular Ecology Resources Primer Development Consortium et al. 2011など)から、ホソウミニナについては、次世代シーケンサーにより作成されたライブラリーを活用し、マイクロサテライト領域を抽出し、東京湾の個体群に適合するように、プライマーの再設計やマルチプレックスPCRの条件設定を行った。マルチプレックスPCRでは、Blacket et al. 2012を参考に、汎用蛍光プライマー(fluorescently labelled universal primer)を用いた。マルチプレックスPCRおよび汎用蛍光プライマーは近年注目されている技術であるが、PCR効率の不安定さ、マルチプレックスの組み合わせを決定する煩雑さ、などの問題点が指摘され、実用された例は多くなかった。しかし、本研究においては、マルチプレックスPCR用に調整されたPCR酵素の使用、マルチプレックスの組み合わせを設計するソフトの活用、必要数の3~10倍のマーカー候補をスクリーニングすること、などで問題点を解決した。これにより、当該年度の計画にあった、局所個体群を分離するのに適切な精度の高い遺伝子マーカーを選択することができた。さらにこの実績は、マルチプレックスPCRおよび汎用蛍光プライマーを用いることにより、マーカーの開発および解析に必要な時間や費用のコストを大幅に削減することができるという事例にもなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究実施計画の通り、ムラサキイガイおよびホソウミニナについて局所個体群を分離するのに適切な精度の高い遺伝子マーカーを選択することができた。また、補完的な採集については、重要と思われる生息地を選定し、メタ個体群の変動性を解明するための試料とした。
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今後の研究の推進方策 |
生態的特徴とメタ個体群との関連性を明らかにする。具体的には、平成24年度に得られた遺伝子マーカーを用いて、東京湾から採集したムラサキイガイとホソウミニナの各個体群について集団遺伝子解析を行い、遺伝的組成を明らかにする。この結果を踏まえ、浮遊幼生期を持つムラサキイガイと直達発生であるホソウミニナのメタ個体群構造(局所個体群間の連結性、加入と供給の役割およびそれらの空間配置)を解明し、2種の違いを示す。 軟体動物では、遺伝的多様性が高いため、個体群の識別が困難な場合のあることが報告されている。本研究で扱う2種についてもこの可能性が懸念されるが、まずは複数のマーカーを使うことによりこの問題の解決を試みる。また、東京湾だけでなく、苫小牧港から洞海湾までの各地の試料と比較し、日本国内にスケールを広げたメタ個体群構造を把握することによって、東京湾スケールの適性を判断する。これより、東京湾内の個体群がひとつの局所個体群であるという結果を得たとしても、国内スケールについてのメタ個体群構造が明らかになるという成果を得ることができる。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該年度に行ったムラサキイガイおよびホソウミニナの遺伝子マーカーの探索において、マルチプレックスPCR法と蛍光汎用プライマーを使用したことにより、遺伝子マーカーの開発費を縮小することが可能となり、当該研究費が生じることとなった。これにより、局所個体群を分離するのに適切な精度の高い遺伝子マーカーを得ることができたが、今後の集団遺伝子解析の課程で、対象を東京湾の外に広げるにあたり、新たな遺伝子マーカーが必要になると考えられる。そこで、当該研究費および翌年度以降に請求する研究費については、集団遺伝子解析を進めるとともに、遺伝子マーカーを追加する際に生じる研究費として使用するものとする。
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