海洋生物の形成するメタ個体群構造を理解することは,都市型の沿岸域のメソスケールにおいて自然再生・管理を行う際に重要である.しかし,生態的特徴とメタ個体群構造の関連性や,生態的特徴が異なる種においてメタ個体群構造の環境変動に対する応答が異なる可能性にまで踏み込んだ実証研究はない.そこで本研究では,都市型の沿岸域のメソスケールにおいて,異なる分散様式を持つホソウミニナ(直達発生)およびムラサキイガイ(浮遊幼生)についてのメタ個体群構造を解明し,生態的特徴の異なる種はメタ個体群構造が異なること,さらにそれらの環境変動に対する応答の違い(変動性)について明らかにすることを目的とした. 初年度は、次世代シーケンサーより作成したライブラリーおよび海外の報告から、局所個体群を分離するのに適切な精度の高いマーカーを選択し、マルチプレックスPCRと汎用プライマー法を用いることにより効率的な実験ができるように条件設定を行った.次年度にこのマーカーを用いて、集団解析を行い、ムラサキイガイとホソウミニナのメタ個体群構造を解明し、異なる分散様式がメタ個体群構造の違いをもたらす可能性について検証した. 最終年度は、加入時期の異なるコホート毎に同様の方法で解析し,その結果を比較することで、メタ個体群構造の変動性(メタ個体群構造がどのように変化するのか)を検討した.ムラサキイガイについては同属とのハイブリッド個体の混入が疑われたため、足糸タンパクおよびITS領域を用いて、ハイブリッドの混入の有無を確認した. 本研究の成果は、メタ個体群研究からメタ群集研究への展開を促す学術的な意義があるとともに、都市型の沿岸域の自然再生・管理においてメタ個体群が有効な概念であることを示すという社会的意義も大きい。
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