本研究では、カビ臭産生微生物・発生箇所の新規特定手法として、遺伝子定量技術(定量PCR法)に着目した。定量PCRは、微生物由来の遺伝子を対象とした定量手法であり、再現性が高い手法として知られている。水環境分野では、ノロウイルス等の病原微生物や藍藻毒を発生する有毒シアノバクテリアの定量に利用されている。カビ臭産生微生物に対しては、これまであまり用いられていない技術であるが、近年、カビ臭原因物質の合成にかかわる遺伝子の存在が報告され、これらの遺伝子領域を対象とした定量PCR系の構築が期待されている。 以上の背景に鑑み、本研究では、操作が簡便かつ迅速で、定量的な結果が得られる定量PCRを利用して、水道水源におけるカビ臭産生微生物の早期検出・定量手法を開発することを目的とした。 カビ臭原因物質として知られているジェオスミンの生合成に関与していると推定されている遺伝子(geoA)を対象とした定量PCR系の特異性を調査するため、カビ臭被害が発生しやすい国内の水道水源から、ジェオスミン産生/非産生Anabaena属等を分離・培養した。定量PCR系をこれらの株に適用し、特異性の高い定量PCR系を選定することができた。また、選定した定量PCR系を利用して、国内の水道水源において、カビ臭生合成遺伝子量とカビ臭原因物質濃度等の関係を調べた結果、両者に相関関係が認められた。ジェオスミン濃度が急上昇する前の低濃度期においても合成遺伝子を検出することができ、産生微生物の早期検出に繋げることができると期待される。さらに、国内の水道水源底層に生息する放線菌が保有するgeoAの保存性が高いことも明らかとした。
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