研究課題
本年度は,昨年度まで得られた知見を基に,より多様な構造物における梁端部の累積変形性能を把握することを目的とした。具体的には,円形鋼管同士の接合部が曲げを受けた場合における,耐力,累積変形性能について,試験体の寸法を変化させた4種類の試験体を対象に検証し,以下の知見を得た。1)繰返し塑性曲げ実験より,破壊形態は部材の断面寸法より主管管壁の変形,支管の局部座屈で決定され,亀裂発生箇所は主管側溶接部,支管側溶接部,局部座屈部に分類される。2)有限要素法による実験の再現解析を実施し,歪集中部の材軸方向歪履歴を用いて算出した累積塑性歪および平均塑性歪振幅は鋼素材の疲労性能式と概ね対応する。3)継手の部材断面寸法を変数としたパラメトリックスタディにより,継手の降伏耐力と支管の降伏耐力,継手の最大耐力と支管の局部座屈耐力が等しくなる支管板厚を閾値として,3通りの亀裂発生箇所が推定できる。4)支管側溶接部および局部座屈部における局部の歪集中率を定式化し,支管端部の部材回転角から塑性歪集中箇所の局部歪の評価する手法を提案した。同手法より,繰返し塑性曲げを受ける円形鋼管T形分岐継手の累積塑性変形性能を評価し得る。次年度以降は,これまで取り組んだブレースおよび累積変形性能を考慮した骨組の耐震性能評価手法の有効性について,縮小架構実験を実施することで検証することを目指す。実験を実現するため,必要となる汎用慣性質量装置の開発に重点的に取り組む予定である。また,本年度は,カナダにおいて研究題目と深く関連する国外発表を行い,昨年度までの成果に関して国外研究者と議論を交わすなどの交流を図った。国内では,本研究課題において用いている数値解析手法の基となる論文にて,日本建築学会奨励賞を受賞し,研究成果が有意義であると認められた。
2: おおむね順調に進展している
本年度の目標としていた円形鋼管同士の接合部の一形式について,実験,数値解析を通して繰返し荷重下における耐力および累積変形性能を検証することができたことは大変に有益であった。また,同接合部の累積変形性能を簡易に評価できる手法を提案しており,同手法を用いることで,計算量の多い有限要素法などの数値解析を行うことなく円形鋼管同士の接合部を設計することが可能と考えられる。これより,本研究課題において本年度に設定した目標をほぼ達成していると考えられるため。
次年度においては,数値解析手法の有効性について検証するため,縮小架構実験を実施することを目標とし,実験にて必要となる汎用慣性質量装置の開発を進める。載荷の試験フレームとしては,本年度と同様に21世紀COEプログラム「都市地震工学の展開と体系化」の予算により導入された500kN載荷試験機を使用する。開発された汎用慣性質量装置を用い,縮小架構に繰返し荷重を与え,本研究で用いた数値解析手法の妥当性について検証する。また,梁端接合部に関する知見のみならず,研究代表者がこれまでに提案してきたブレース部材等に関する知見も併せ,長周期地震動を受ける超高層建物の終局耐震性能について分析を行う。更に,超高層建物ではなく崩壊系が柱降伏型の鋼構造物においても,本研究において提案した評価手法を応用し,その適用性について検証する。
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Earthquake Engineering & Structural Dynamics
巻: Vol. 43, Issue 6 ページ: pp. 851-869
10.1002/eqe.2376
日本建築学会構造系論文集
巻: 第78巻,第690号 ページ: 1485-1492
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日本鋼構造協会鋼構造論文集
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