歴史的煉瓦造建築物の耐震改修においては,その文化的価値のため,外観の変更が生じないことが望ましい。意匠変更の少ない補強法の有効性を確認する破壊実験や,実在建物の振動計測を実施し,補強前後での振動特性変化を確認した先行研究が存在する。しかし,同一の対象で補強前後の煉瓦壁に対して破壊実験と振動計測を実施した研究事例は見当たらない。 そこで,本研究期間においては,煉瓦造建築物の外観変更が少ない壁体内補強として目地置換工法とステンレスピン挿入補強法に着目し,6体の柱状壁試験体の常時微動計測と曲げ試験を実施し,振動特性変化を把握するとともに補強効果を確認した。また,目地置換工法としては,既存のアラミドロッド目地置換工法と,施工性と補強効果のより高い手法を模索するため,新素材のセルロースナノファイバーを適用することを検討した。 柱状壁試験体に対して曲げ試験を実施し,補強効果を確認した。初期剛性はセルロースナノファイバーを用いた目地置換工法の場合は他の試験体の概ね2倍を記録した。一方,全ての試験体で目地モルタルと煉瓦の界面で破壊が生じたが,目地引張強度に関しては全試験体において特筆すべき差異は無く,セルロースナノファイバーを用いた場合の付着性には課題が残る。 また,同一試験体に対して常時微動計測を実施し,固有値解析を通じて補強効果と固有振動数の関連を検証した。常時微動計測は,無補強時・壁体内補強時・鉄骨外装時の3回行った。壁体内補強を施した際は無補強時から若干の上昇が確認されたが,鉄骨外装時ほど明確な変化はみられなかった。解析結果と計測結果は異なるものの,固有振動数の上昇傾向は確認できた。しかし,解析値は,壁体内補強を施す前後での固有振動数の増加率が実験結果に比べて高く,鉄骨外装前後での増加率は高くない。解析における壁体内補強の扱いは今後の課題である。
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