壁脚部でせん断すべり破壊する鉄筋コンクリート造(RC造)耐震壁の基礎データを得ることに主眼を置き、柱型の有無を実験変数とした2体の片持ち形式のRC造耐震壁試験体に対する載荷実験を実施した。試験体設計では、せん断破壊に対して曲げ降伏が先行するように十分なせん断耐力を確保した上で、既往研究のせん断すべり耐力評価式(Paulayらによる提案式、Eurocode式)や実験結果を参考にせん断すべり破壊するよう試験体の諸元(せん断スパン、鉄筋量、軸力など)を決定するとともに、全断面積、主筋量、壁筋量を2体で等しくすることで曲げ圧縮部の断面形状以外の因子が脚部せん断すべり挙動に及ぼす影響を排除することを試みた。載荷実験では、柱型を有しない試験体で大変形時に壁端部拘束域が面外方向に座屈し、柱型を有する試験体に比べて早期に大幅な耐力低下を示した。しかし、いずれの試験体においてもせん断すべり破壊は発生せず、曲げ破壊より終局状態に至った。壁脚部及び壁板の変形成分を分析した結果、壁脚部のひび割れ面における壁板の脚部におけるすべり変位は最大でも全体変形の10~15%程度に留まり、実験を通して曲げ変形が支配的で、曲げひび割れが分散して発生したことにより脚部だけでなくそれぞれの曲げひび割れにせん断すべり変形が分散したことが、載荷実験においてせん断すべり破壊しなかった要因であると推定した。一方、過去に作成したRC造耐震壁試験体に関する実験データベースの一部(柱型を持たない試験体121体)を用いて、既往のせん断すべり耐力評価式による耐力及び破壊形式の予測精度について検証を行った。その結果、いずれの既往の評価式でも耐力や破壊形式に関する全体的な傾向は把握できているものの、実験値に対する計算値のばらつきが大きい(変動係数で約35%)こと示す結果が得られた。
|