研究課題/領域番号 |
24760470
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
福留 伸高 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 特任助教 (30599808)
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キーワード | 気象ネットワーク / 気象データ / 気候区分 / 地域特性 / 多分野活用 |
研究概要 |
平成25年度において、以下に示す内容を実施してきた。 1.気象観測システムの設置・観測:昨年度設置した東京都内の都立高校1校の気象観測システムにおいて適正な運用と観測データの収集を継続して実施した。新たな観測点を加えた都内約30地点のセンサとアメダスの観測データを利用した精度検証や周辺環境の比較分析を行った。本研究において設置した高校は都心部と多摩西部の中間に位置しており、周辺環境が低層住宅地域であり、多様な周辺環境下での観測データ取得を実現できた。 2.東京都内の地域気候特性の分析:都内設置の約30地点のうち、14地点を抽出して収集した観測データ(気温、湿度、風速、風向、外気エンタルピーなど)の比較分析を進め、広域と狭域、地表面状態の違い、周辺地形状の違い等によって観測データ分布の違いを明らかにした。特に23区内に比べ多摩地域の気候特性の違いは大きく、多摩地域において気候区分を設ける意義が大きいことを示した。こうした知見をまとめ、日本建築学会と空気調和・衛生工学会において学会発表を行った。 3.観測データの多分野活用に関する活動:大学等の研究機関や高校生・教員などが参加した高大連携事業成果報告会において、研究代表者が専門とする建築学分野における気象観測データの活用実態について口頭発表を行い、気象データの社会的価値と学術的な分析手法等を紹介し、そこから見える東京の気候特性について報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題では、公共建築物の一つである学校施設等に気象観測システムを設置して観測密度を高めた地域気候特性の分析を行い、省エネ・環境配慮技術の適正な導入に寄与する地域気候区分を提案する。また観測データの多分野活用手法を提案し、社会的ニーズに対応するアプリケーション開発や対外発信の拡充を目指す。現段階において、以下に示す内容を達成してきた。 1.気象観測システムの設置・観測:気象観測システムを都立高校1校に設置して観測を継続している。アメダス観測値との比較や設置点の周辺環境の比較調査を行い、一定の観測精度が担保されていることを確認した。また風向・風速などの地域性が大きく影響する気象要素において設置校のデータが分布特性の違いを確認する上で有用であることを示し、都内における観測密度向上に寄与する知見を得た。 2.東京都内の気候特性の現状分析:既設置の14地点で収集した観測データ(気温、湿度、風速、風向、エンタルピーなど)の比較分析を進め、広域と狭域、周辺環境の違い等による観測データ分布の違いを明らかにし、都内において一定の気候区分の設定が必要であることを示した。気候区分設定において、気温はアメダスで推定することが可能である一方、風や降雨量についてはアメダスと気象センサのデータを連携して推定する必要性を確認した。 3.観測データの多分野活用の調査:設置校の教員・生徒との定期的な学校訪問時やシンポジウムや成果報告会等での意見交換を通し、高校側の主体的な活動動機の認知が活動を進めていく上で不可欠であり、具体的な計画立案のサポートの重要性が高いことが見えてきた。ニーズ調査を通し、高校側が主体的の取り組めそうな話題やデータ利活用から広がる分析・プレゼンテーション能力の向上といった個人能力の可能性を認知させることの重要性に着目して継続的な支援を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度で得られた結果を踏まえ、以下に示す計画のもとに本課題に取り組む。 1.継続的な気象観測システムの運用:本課題において設置した地点と既設置地点の観測データ収集と観測精度の検証を継続する。 2.都内の気候分布特性の分析:都内約30か所の観測地点で取得されたデータを利用して、観測密度を高めた気候分布特性を各気象要素データ別に整理する。さらに周辺地域の環境条件の変化等も調査して観測データの妥当性を確認する。上記の過程を通し、東京における地域別の気候特性情報(気候区分マップなど)の大まかな全体像を把握して論文等にて公開していくことを目指す。 3.社会的ニーズに対応するデータ利活用法の提案とアプリケーションの開発:本課題では都立高校への気象観測システムの設置を進めている。設置校の教員・生徒からの意見(ニーズ)を踏まえ、理科教育の教材データや災害時の登下校の安全可否の判断指標としての活用といった多様な提案につなげる。具体的には、課外活動や出前授業など通してニーズに対応した活用手法の提案を目指していく。このためには設置校の教員・生徒との定期的な打ち合わせと高校側の主体的な取り組み姿勢が重要であり、研究代表者としてデータ利活用に関する話題提供や活動内容を発表する報告会等の情報を定期的に発信する予定である。 また1から3で得られた知見をまとめ、日本建築学会、空気調和・衛生工学会などにおいて口頭発表、学会論文集への論文投稿を進めるとともに、設置校の教員・生徒がまとめた研究成果をシンポジウムやコンテストでの発表する手法を提案・支援する可能性を含めた活動を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度終了時に次年度繰越金が発生したのは、設置校への設置と観測システムの運用にとあわせて進めていた設置校での観測データの利活用ニーズに関する調査において学校側とのニーズの抽出や学校側の主体的な取り組みなどが十分なされたとはいえず、学生アルバイトの採用が高校における観測データの利活用に関する取り組みより観測データの分析を軸におくことになったためである。加えて研究成果を報告する学会等への参加が学務スケジュールとの調整により、当初計画時より少なくなったことも繰越金が生じた一因である。 平成26年度は、気象観測データに基づいた地域気候特性の分析と研究成果発表や類似研究の動向調査を行うため、所属学会等における論文投稿・口頭発表・学会参加を重点的に行う。またデータ分析や設置校でのデータ利活用計画の検討のため、随時、必要な機器等の購入や学生アルバイトの採用(謝金の支払い)、成果物等に関する作成費用に今年度交付分を含めた本助成金を充てる予定である。
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