本研究の目的は道路交通や鉄道からの騒音および振動による影響を検討するための,居住環境評価に関する因果モデルを構築することであった。2013年に長野新幹線鉄道沿線の居住地域を対象に騒音と振動による居住環境への影響調査として社会調査および騒音と振動の物理測定・推計を行った。これにより,新幹線鉄道からの騒音レベルと振動レベルを複合的に組み込んだ因果モデルを構築することが可能となった。戸建て住宅の居住者を対象として得られたサンプル数は294件であり,回収率は45.4%であった。この調査結果はロジスティック回帰分析による騒音曝露ー反応関係を示すこともでき,環境基準値(主として住居の用に供される地域)である70dBにおいて,言語尺度上位2カテゴリ(非常にとだいぶ)を選択した人の割合は約26%,11段階の数値尺度のうち上位3カテゴリを選択した人の割合は約16%であるという知見を得た。さらに,騒音の不快感に振動レベルも有意に影響することを確認した。最終年度は,これら知見と申請者のこれまでの研究成果から騒音と振動の二つの物理量が影響することを踏まえた複合被害感に関する因果モデルを構築した。現状ではモデルの適合度指標であるCFIは0.951,RMSEAでは0.074という比較的良好なモデルを示すことができた。このモデルでは聴取妨害から複合被害感への影響が最も大きいという従来の知見と同様の結果であった一方で,睡眠妨害は有意ではないという結果を得た。またLASmaxから他の変数へのパスも有意ではなく,今後これらパスの有意性を含めた因果モデルの改良が課題となる。
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