本研究はイギリスのセルフ・ヘルプ・ハウジング(Self-Help Housing,以下SHHと略す)に関する調査研究である。SHHとは,地域に根差した非営利コミュニティ団体等が中核となり,若者ら地元住民の手によって空き家を修繕し,彼らの住まいとして活用する取り組みである。この取り組みは,若者の住宅難と空き家の増加が社会問題化しつつあるわが国にとって大いに参考となると考えられる。そこで本研究は,イギリスにおいてSHHが行われる仕組みを明らかにし,わが国への応用の可能性を検討することを目的として現地調査を行った。 現地調査では,イギリス各地でSHHに取り組む8つの非営利コミュニティ団体を主な調査対象として,各団体の代表者(Director)及びスタッフに面会し,組織構成,実績,財源等について尋ねたほか,実際の居住者や現場作業参加者にも話を聞いた。また,地方自治体の空き家対策担当者や,SHHの中間支援組織に対しても調査を行った。 調査の結果,(1)古い団体では1980年代からSHHに取り組んでいるが,2012年より導入された政府の空き家補助金(Empty Homes Grant)が契機となって新規参入した団体が非常に多いこと,(2)地域によって改修物件の所有形態は異なり,改修物件を所有し賃料収入を経営の安定化につなげている場合もあれば,一定期間リースしその間の賃料収入により必要な費用を回収する場合もあること,(3)住居の提供だけでなく利用者の自立を促すためのパーソナルケアが重視されていること,(4)職業訓練校と連携した見習い研修制度(apprenticeship)に適応したり,私企業のCSR活動のためのボランティアを効果的に組み込んだりして労働力を確保していること,(5)改修時には省エネ性能の向上が積極的に取り組まれていること,等が明らかとなった。
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