研究課題/領域番号 |
24760490
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
安福 健祐 大阪大学, サイバーメディアセンター, 助教 (20452386)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 避難シミュレーション / 群集流動 / 行列 / 視野空間 / マルチエージェントシステム / 人間行動モデル |
研究概要 |
2012年度は、大規模災害時を想定した避難誘導方策を検証するための避難解析システムを開発した。本システムの特徴は、建築物単体から大規模都市施設までスケーラブルに扱える点である。そのために並列コンピューティング技術を活用することで、従来の逐次処理型アルゴリズムよりもスケーラビリティを向上させ、2万5000人規模の広域避難シミュレーションにおいて、従来の手法よりも計算時間を約7倍短縮した。 また、群集の誘導、行列の形成を再現するため、新しい群集行動モデルを開発し、既往研究の観測データと比較することで、実際の行列の線密度を再現するパラメータ設定を明らかにした。また、滞留エリア形状の違いにより、行列の群集流動特性を比較したところ、開口部の幅と行列の幅を一致させることで流動係数が向上し、行列が途中で蛇行すると流動係数は低下するが、行列を設けないよりも安全性は向上することを示した。さらに、本システムを現在建設中の大規模集客施設の群集誘導検討に利用することで、従来の情報共有では数値を元にした説明のために理解が困難であった非専門家に対しも、その結果を可視化することで有効な情報共有手法となり得た。 上記以外に、人間の知覚に基づく行動モデル開発の基礎研究として、人間の視野空間を定量的に分析する研究を行った。人間の行動と視野空間の関連を分析するため、インタラクティブな操作が可能なウォークスルーシステム上で、歩行経路に沿った視野空間の変化が分析可能なツールの開発を行った。本システムを実在する建築空間に適用し、歩行経路に沿った視野空間の変化を分析した結果、移動に伴う壁、柱、開口部の見え方の変化が水平方向の視野空間に特徴的な変化をもたらすこと、天井、床、地面の見え方および開口部の奥にある空間の天井高と奥行きが垂直方向の視野空間に特徴的な変化をもたらすことなどを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2012年度の研究計画では、並列コンピューティング技術を用いたエージェントベース避難シミュレーションの開発を主な目的としていた。避難シミュレーションで扱う人間の行動は、(1)局所的な行動と(2)大域的な行動に分けてモデル化されている。このうち局所的な行動については、GPUコンピューティングによる並列化によって処理の高速化が確かめられた。大域的な行動計算の並列化については、シンプルなGUIツールを用意し、あらかじめ誘導方向を手動設定することで、GPUで並列処理しやすいデータ構造とした。 また、本年度は、従来の避難行動モデルで取り扱われることが少ないグループ形成や、グループ同士のインタラクションを新たに導入する計画であった。これについては、追従行動や行列形成行動などを新たに導入しているが、一部並列処理への対応は遅れている。一方で、新しく人間の視知覚に基づく行動モデルの検討も行なっており、そのための準備段階として、視野空間の定量化にも取り組むことができた。 上記の進捗状況を鑑み、並列コンピューティング技術を用いたエージェントベース避難シミュレーションの開発について、一部技術的な課題が残っているものの、そのプロトタイプはほぼ完成した。また、新たに視知覚ベースの行動モデル構築についての手がかりが得られたことなど、当初の研究計画から発展している部分もあり、研究の計画はおおむね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度からは、避難解析システムで計算した結果を大規模可視化装置に出力することが主な目的である。可視化装置としては、シミュレーションの目的に合わせて、(1) タイルドディスプレイウォール(TDW)、(2)没入型周壁面ディスプレイ装置(CAVE)を使用し、それぞれに対応したシステムの開発を行う。TDWは、一般のディスプレイをタイル状に敷き詰めることで、大型かつ高解像度の映像を提示することができる。そのため、広域避難シミュレーション結果として避難状況を高解像度地図画像と重ね合わせて表示する場合に、通常のディスプレイよりも広範囲の映像を高精細に出力することができる。一方、CAVEは高品質なVR体験が可能な装置であり、ユーザーの視点位置を検出しながら周壁面に映像を投影することで、広視野かつ没入感覚の高い映像を生成できる。この特徴を活かして、避難者の視点で避難状況を3Dグラフィックスで可視化し、ユーザーにバーチャルな災害を体験させて防災教育にも役立てる。 また、その可視化結果を用いて人間行動モデルの妥当性を検証する。当初の研究計画においては大規模地下空間浸水時の避難行動を対象としていたが、大規模災害時の避難行動データが現在のところ入手困難な状況である。そこで大規模集客施設における群集観測データを活用し、群集行動モデルとしての評価を行う計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は、物品費としては、避難解析システムを大規模可視化装置に出力するために必要となる開発用機材、ディスプレイ装置および参考書籍に約50万円を使用する。外国旅費としては、バーチャルリアリティ技術を活用した建設に関する国際会議において、群集シミュレーションに関する研究発表のために約45万円を使用する。国内旅費としては、建築学会での研究発表、技術セミナーへの参加に約10万円を使用する。人件費・謝金は、英語論文校正やデータ入力作業に約10万円を使用する。その他に、日本建築学会などへの学会誌投稿料として約8万円を使用する計画である。
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