研究課題/領域番号 |
24760490
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
安福 健祐 大阪大学, サイバーメディアセンター, 助教 (20452386)
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キーワード | 避難シミュレーション / 群集シミュレーション / 遺伝的アルゴリズム / 避難施設配置 |
研究概要 |
2013年度は、建築物単体から都市空間までをスケーラブルに扱うことができる避難解析システムに人間の待ち行列行動を組み込み、観測結果と比較することで、現実に近い群集密度や、歩行時のstop-and-go波を再現するパラメータ設定を明らかにした。また、シミュレーション結果の情報共有を効果的に行うため、対象空間における俯瞰視点と一人称視点を組み合わせた可視化システムを構築した。その結果、平面図上で群集の任意方向誘導および最短経路誘導をインタラクティブな操作で行いながら、さらにその群集流を、広視野角HMDを用いてヘッドトラッキングによる頭部運動に応じた立体視映像により提示することで、CAVEのように大規模なシステムを利用することなく、可搬性の高い装置で没入感の高い群集流動体験を可能とした。 また上記に加え、大規模な空間構成における避難計画において、遺伝的アルゴリズム(GA)を用い、階段や扉など建物内の避難施設配置の一部を変更するだけで、避難時間を短縮する計画案が提示される避難施設配置システムを開発した。さらに、それを避難解析システムによって、群集の大きさや避難上のボトルネックを視覚化して検証を行うフレームワークを構築した。その結果、GAの1世代目で適応度が最大となる避難施設配置と、GAの最終世代で適応度が最大となる避難施設配置を比較すると避難時間は41.2%短縮した。また、GAにより得られた避難施設配置に対して、避難解析システムによる評価を行った結果、群集流動を考慮したシミュレーションにおいても、世代が進むにつれて避難安全性が向上することが確かめられた。一方で、避難解析システムではGAで想定していた避難経路が変化し、各階段を使用する避難者数に差が生じること、群集流動はGAのように通路や開口部の流動係数が一定にならないなど、結果の一致しない現象が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2013年度の研究計画では、避難解析システムで計算した結果を大規模可視化装置に出力することを主な目的としていた。可視化装置としては、シミュレーションの目的に合わせて、(1) タイルドディスプレイウォール、(2) 没入型壁面ディスプレイ装置(CAVE)を使用し、それぞれに対応したシステムを開発するとしていた。これらの装置には、大阪大学サイバーメディアセンターの装置を利用する予定であったが、2013年度中に急遽システムの更新が決定し、利用期間が限定されることになった。そのため、2013年度はここ数年注目を集めている広視野ヘッドマウントディスプレイ装置への対応を行い、大型可視化装置の可搬性の問題を解決しつつ、臨場感の高い可視化システムを開発した。ただし、タイルドディスプレイウォール、没入型壁面ディスプレイ装置への出力対応については、プログラムをほぼ共通化して対応を進めており、システム更新後、検証を行えるようにしている。また、本年度は、避難解析システムの群集流動特性を改良し、平常時の行列行動モデルを観測データと比較することで、より現実に近づけるパラメータ特性を明らかにした。これらの行動モデルについても、スケーラブリティを向上させるため、並列処理しやすいデータ構造を採用しているが、GPUへの対応の実装は遅れている。一方で、避難解析システムを、遺伝的アルゴリズムを用いた建物内の避難施設配置システムの評価に利用し、応用研究として進めることができた。 上記の進捗状況を鑑み、大型可視化装置への対応が残っているものの、新たな応用研究を進めることができたことなど、当初の研究計画から発展している部分もあり、研究計画としてはおおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度は、本研究課題の最終年度として、平成24、25年度で開発を行ったスケーラブル型避難解析システムを用いた事例分析を行う。具体的には国内に実在する大規模地下空間を対象として、津波および集中豪雨による河川決壊による地下空間浸水災害を想定した避難解析を行う。シミュレーションを行うにあたっては、初期条件としての地下空間の滞留人数、実際の避難誘導計画などを想定する必要があり、既往の観測データや資料を元に再現する。滞留人数など最新のデータが入手できない場合は、現地撮影およびデジタル画像解析技術などを活用して現況の地下空間の滞留人数を調査する。また浸水災害の想定は、各地下街で策定されている浸水想定を用いる。このように詳細な避難者の条件設定や浸水状況をシミュレーションに組み込むことで、大規模地下空間での避難状況を再現し安全性の評価を行う。具体的には、避難上危険な水位までに全員が避難できるかを検証し、避難開始までにどれくらいの余裕があるかを明らかにすること、想定された避難経路をすべて使用できた場合と、浸水により一部避難経路が通行不能になった場合の危険性について定量的な評価を行う。 また、そのシミュレーション結果は、大規模地下街の避難状況を直感的に把握できるように、大規模可視化システム上に表示する。大規模可視化装置としては、2014年4月に大阪大学サイバーメディアセンターに導入されている24面立体表示システムを利用する。当該表示システムは、50インチ、フルHD解像度のリアプロジェクションモジュール24台で構成されており、5000万ピクセルの高精細画像を表示できることが特徴である。また、この可視化結果を元に防災専門家と計画案の検討を行うとともに、一般にも広く公開し、防災教育の啓蒙活動に利用する。
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次年度の研究費の使用計画 |
物品の価格や旅費に差額が生じたため。 次年度は、物品費としては、避難解析システムを大規模可視化装置に出力するためのソフトウェア開発に必要となるPC関連機材に約30万円を使用する。外国旅費としては、グラフィックスに関する国際会議および避難シミュレーションに関する国際会議において研究発表のために約70万円を使用する。国内旅費としては、国内で行われるCADに関する国際会議、日本図学会での研究発表に約10万円を使用する。人件費・謝金は、英語論文校正に約5万円を使用する。その他に、日本建築学会などへの学会誌投稿料として約5万円を使用する計画である。
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