本研究は、地域の持続可能性という観点からの地域資源や空間利用の評価、多様な主体が関わる地域の土地利用変容マネジメント、長期的視点に基づいた土地利用変容に対する評価・計画づくりと言った都市計画の課題に対して、由布院盆地を対象として、地域住民に伝わる土地利用の「掟」と地域住民や行政が進めてきた空間づくりの「履歴」を把握することを目的としている。平成24年度は、由布院盆地における土地利用の「掟」について、地名、開発、災害、地域資源、言い伝え等の観点からヒアリング調査や文献調査を怒った。 平成25年度は、由布院盆地を対象として、空間づくりの「履歴」に関する調査を行った。ヒアリング等のフィールド調査によって、湯布院町および由布市がこれまでに行ってきた環境整備、地域住民が主体的に行ってきた環境整備、その他地域住民による日常的な活動を把握した。そうした空間づくりの「履歴」から、由布院盆地の住民が地域の環境に対して主体的で高い意識を持ち、またそれが地域住民の間で、様々なコミュニティレベルで、多層的に共有されていることが明らかになった。また、湯布院町時代は、行政と住民の意識は、信頼性と対立が共存した「対立的信頼関係」(中谷健太郎氏)にあったが、平成の大合併後、そうした関係が希薄になってきている点も指摘された。 平成26年度は、これまでの調査結果をもとに、現行の都市計画行政の評価を行った。由布院盆地の土地利用の「掟」と「履歴」を規定してきた主要な要素は「水環境の豊かさ」と「土砂災害」であり、「環境」と「防災」の両面を持ち、そうした風土的な条件の中でコミュニティの暮らし方が醸成されてきたと言える。その一方で、現行の都市計画行政は、開発に対する評価の視点として、「環境」に偏っており防災の観点が希薄であったこと、「環境」の捉え方として山から川までをつなぐ水循環としての視点が欠けていたことが指摘された。
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