デンマークの非営利住宅では、公的な賃貸住宅であるにも関わらず、居住者による主体的な建物の維持管理(「テナント・デモクラシー」という)が実現していることが明らかとなった。素人である居住者が住まいの維持管理を行うために、専門家である管理法人による専門的知識の提供、居住者教育、入退去管理等の代行などが行われ、居住者主体の維持管理を後押しされている。また、供給戸数や建設費補助などは自治体と緊密に協力することでコントロールされている。 一方で我が国の公営住宅では、入退去の管理、計画修繕や小破修繕、日常の管理運営など全てを事業主体である自治体が行っている。一部、萌芽的な事例において、塗料など材料を自治体が支給し、住民が公営住宅の木部の塗装を行うことで、建物の維持管理を行うとともにコミュニティの向上を図っている事例などがみられた。 社会的背景や公的住宅の位置づけなどの違いはあるものの、デンマークの非営利住宅と我が国の公営住宅に共通する部分は多い。本研究では、両者の実態の分析と我が国の萌芽的事例の考察より、我が国の公営住宅におけるテナント・デモクラシー実現のための課題を整理するとともに、日本型テナント・デモクラシーの組織体制を提案した。住民(自治会)が自主的に修繕の判断を行うことなどにより、事業主体の負担を軽減することが可能になるとともに、建物の維持管理やその判断過程に居住者が関わる中でコミュニティの向上にも寄与すると期待できる。今後の研究において、さらにこれらの実証可能性や実現のための問題点等の検証が必要である。
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