最終年度である今年度の研究計画には、島根県の中海-境港、石川県の河北潟-金沢、秋田県の八郎潟-大潟村の現地調査を予定していた。これについては一部変更を行い、石川県の河北潟-金沢ではなく青森県の十三湊-十三湖を加え、また中海-境港に近接する城下町の松江-宍道湖も加えることで、より多様な時代と類型にわたる〈水際〉の居住のありようを把握することにつとめた。 また、研究計画では最終年度に1回の国外出張を予定していた。国土のかなりの面積が低湿地で占められ、歴史的に低湿地での暮らしが営まれてきた国外の集住体に関する比較史的検討を行うため、これまで応募者が従事してきたヨーロッパ各地での調査知見を踏まえてスコットランドでの現地調査を実施し、都市・集落の立地や生業と低湿地の暮らしや技術との関係を把握すると共に、今後の比較史的検討に資するための書籍・情報収集を行った。 以上を通じて、水路・運河・堰・分水・人工河川の開削と利用・舟運など、水の制御と利用、利益享受をめぐる沼垂-新潟-蒲原相互の諸関係について、技術-空間-社会の各観点を統合するべく検討を進めた。 加えて、平成24・25年度に実施してきた新潟-沼垂-蒲原についての現地調査も継続し、今年度は土壌学の研究者に協力を要請して新たに試験的な調査を行った。すなわち、氾濫原-沼-潟における居住の基盤や足がかりがある程度その地面の質に対応的なのではないかという仮説のもと、蒲原平野で計18ヵ所の土壌サンプルを採取し分析した。その結果、近世以来の各集落において屋敷地は砂質土壌上に選ばれている一方で、周囲を取り巻く田地はおおむね全て粘質土壌であるという明快な結果が得られ、蒲原平野の集落は地面の質(ここでは土壌の質)の違いに対応的な立地選択が行われていることが示唆された。
|