研究課題/領域番号 |
24760521
|
研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
中野 茂夫 島根大学, 総合理工学研究科(研究院), 准教授 (00396607)
|
キーワード | 新興工業都市 / 計画標準 / 近隣住区 |
研究概要 |
本年度は、新興工業都市に指定されたすべての都市の都市計画関係資料について、国立公文書館所蔵「公文雑纂」および建設省に引き継がれた公文書を網羅的に収集した。特に「公文雑纂」以外の都市計画関係資料については、未整理のまま綴じられているが、法定都市計画の策定現場により近い情報が含まれており、その成果を整理することで多くの知見を得ることができまた。 以上の史料をもとに、法定都市計画決定された事項については、すべて図化しており、同一縮尺で比較検討することで土地区画整理の規模の比較や計画標準の適用状況などを精査することが可能となった。 また個別都市の重点的な調査も実施しており、新興工業都市の茨城県日立市旧多賀町を含む日立製作所の一体的な工業開発について網羅的に明らかにすることができた。特に勝田町は新興工業都市には指定されていなかったが、同様に工業開発が行われており、近隣住区論を先進的に取り入れた先進的な都市計画が策定されていたことが明らかとなった。また新興工業都市のなかでも最大規模を誇った広畑についても重点的な資料収集を行った結果、新興工業都市計画が広大な範囲で策定されていたが、さらにその周辺地区にあたる英賀保や網干においては、その計画と連携して都市計画が策定されていたことが明らかとなった。個別都市における資料収集も継続して行っており、福浜、春日原、苅田の新興工業都市の資料収集を現地の図書館等において行った。 一方、新興工業都市と比較検討するために同時代において同等の都市計画が策定されていた水島において詳細な調査を実施し、水島工業都市計画の策定とともに広大な土地区画整理が実施され、特に特徴的な公園計画が策定されていたことが明らかとなった。公園の適正な配置については内務省等でも検討していたと考えられ、他の新興工業都市計画でも同様に策定されていた可能性があるため、今後の課題となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新興工業都市に関係する都市計画関係史料については、旧内務省が所蔵する史料と都市計画地方委員会が所蔵する史料がある。都市計画地方委員会で策定した文書を内務省に提出するため、正式に決定された内容のものは内務省が所蔵しており、現在は国立公文書館で保管されている。国立公文書館が所蔵する都市計画関係史料を網羅的に収集することが本年度まででほぼ完了しており、法定都市計画として決定した内容についてはほぼ全体を明らかにすることが可能となったという点で、順調に進展していると考えている。 国立公文書館が所蔵する都市計画関係史料について、都市計画図に該当するものについては、すべてデジタルデータとして図化する作業も完了しており、土地区画整理の規模や計画標準の内容について具体的な数値に基づいて分析することが可能となった。 一方で都市計画地方委員会が所蔵する史料については、戦災等の関係ですべてが残存しているわけではなく、資料収集が可能な都市について鋭意行っている。その意味ではすべての史料を収集することは不可能だと考えられるが、国立公文書館に旧建設省に引き継がれた史料にその一部が残されており、その史料についてはほぼすべてを収集することができたという点では順調に進展していると考えている。個別都市の資料収集については、厖大な史料が確認された主要都市については完了しているが、現存が確認されていない資料もあり、今後の課題となっている。 新興工業都市の多賀を含む日立製作所関連の茨城県北部の一体的な工業開発については、学術研究論文としてまとめる成果を上げた(次年度掲載予定)。また新興工業都市の広畑や、比較検討のために調査した水島についても一定度まとめており、投稿中である。
|
今後の研究の推進方策 |
国立公文書館で資料収集を行った新興工業都市の都市計画関係史料について、整理・分析し、また図化したデータをもとに計画標準等について検証した上で、すべての都市を比較検討し、総合的な検討を行う予定である。その成果を学術論文として公表することを予定している。 また新興工業都市の個別都市の研究において、一定の資料収集を行うことが可能であった都市についても、現地調査を含む詳細な調査を実施し、学術論文としてまとめる予定である。 また新興工業都市計画は、戦時下の工業の地方分散化政策という国策として実施されており、その国策のなかでどう位置づけられていたのかについては、資料収集も含めて今後の課題となっている。東京都公文書館所蔵の内田祥三資料を精査したところ、新興工業都市について旧厚生省が詳細な調査を実施していたことが明らかとなった。それらを参考にして旧内務省では新興工業都市の計画標準を検討していたと考えられるため、今後、地方の個別の計画策定と中央での検討について関係性を吟味する必要がある。工業の地方分散化という国策のなかで、近隣住区や国民学校区の議論ととともに新興工業都市計画の計画標準も検討されていた。そうした内容について精査するための資料収集を今後行っていく予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
投稿中の論文掲載が次年度となったため 論文投稿費
|