当該年度は、横須賀製鉄所の基本計画書である所謂「規則書」の分析を行った。「規則書」は、日本語版とフランス語版が日仏の資料館に伝来しており、日本語版では、近年、根本資料を元にした研究が進められ、3種類の「規則書」の存在が指摘されている。そこで本研究では、フランス語版の「規則書」と対訳関係にあった日本語版の「規則書」を割り出したうえで、対比的研究を行った。その結果、フランス防衛資料館所蔵の「フランス語版の規則書」と日本語版の規則書では、項目等の文書体裁が共通し、フランス語版に記された作成日が日本側の動向とも整合していることが明らかとなった。また、日仏版の規則書は高い翻訳制度で作成されていたことも確認された。日仏版の「規則書」では、勤務条件に関する細かい記載に多少の相違点が認められるものの、横須賀製鉄所の事業計画については、柴田日向守剛中一行とヴェルニーの渡仏前の規則書作成段階において、事業内容に加えて各事業項目の予算案の詳細に至るまで日仏双方で調整が進められていたものと考えられる。横須賀製鉄所首長のフランス人技師ヴェルニーは、「規則書」を作成後にその建設準備のために渡仏しているが、渡仏中に日本側で実施しておくべき建設事業を記した文書や当初の建設方針に関わる関連文書の存在も確認された。これらの分析については、今後の研究課題とした。 この他、「横須賀製鉄所(造船所)における耐震と破壊強度試験」に関わる資料の整理と分析を進め、その成果の一部を日本建築学会の大会にて発表した。ここで、横須賀製鉄所では幕末期から耐震設計を意識していたこと、並びに、横須賀造船所時代には破壊実験を伴う材料の強度試験と研究を行っていた事を指摘した。これは、わが国の建築史上において先駆的な取り組みであり、横須賀製鉄所(造船所)に導入された建築技術が本格的なもので、先駆性を有していた事について、改めて指摘できた。
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