昨年度に引き続きBiFeO3を太陽電池材料として応用できる可能性を探るために、水熱法によるBiFeO3エピタキシャル薄膜の作製とその電子状態の解明に取り組んだ。昨年度の条件で作製したエピタキシャル薄膜についてはリーク電流が大きく分極させることができなかったためXPS測定を行ったところ、金属Biの存在を示唆する結果が得られた。XRD測定では金属Biの存在は検出できなかったため、粒界などに非晶質の形で存在していることが考えられる。そこでエピタキシャル薄膜の作製条件の最適化をさらに進めたところ、XPS測定においても金属Biが確認できない条件を確立できた。しかしながらこの条件下で得られた薄膜のリーク電流も依然大きく、分極操作ができなかった。そこで分極によるバンド構造を調べることに特化した試料としてBaTiO3を作製し、分極させたのちXPS測定を行った。この試料ではチャージアップを避けることができないため中和銃で電荷を補償する必要があるため、UPS測定により信頼性のあるバンドダイアグラムを作成することは難しい。そこでXPS測定による内殻軌道のピークシフトにより分極させた試料におけるバンドの傾斜を観察したところ、分極試料の両表面において1.3 eV程度のピークシフトが認められ、分極によりバンド構造に大きな傾斜が生じていることを直接観察することができた。この結果から「強誘電性半導体」を用いることでバンドギャップより高い開放端電圧を得られる太陽電池の実現の可能性を示すことができたと考えられる。
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