研究課題/領域番号 |
24760562
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
酒井 哲也 日本大学, 生産工学部, 准教授 (70376961)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | イオン交換 / 熱硬化性樹脂 / ゼオライト / イオン交換樹脂 / 劣化 |
研究概要 |
熱硬化性樹脂に有機系および無機系イオン交換体フィラーを充填した複合材料を作製し、酸性環境、アルカリ性さらに中性塩水溶液で浸せき試験を行い、イオン交換体の化学反応によって耐食性を制御することが可能な複合材料開発を行う。 平成24年度は有機系イオン交換体および無機系イオン交換体粒子を熱硬化性樹脂(不飽和ポリエスエル)に充填した試験片の「作製」を目的とし、主に、イオン交換樹脂の粉砕およびイオン交換体の最適充填量の選定から行った。球形で直径500マイクロメートル程度のスチレンジビニルベンゼン製のイオン交換樹脂を充填するために、平成24年度購入した小型粉砕機によってイオン交換樹脂を10マイクロメートルオーダーで粉砕した。その結果、マトリックスである熱硬化性樹脂とイオン交換樹脂の混合もしくは物理的結合(吸着)は向上し、試験片の作製が可能になった。また、イオン交換樹脂充填熱硬化性樹脂は増量材としてシリカを配合させ、沈降等の不均一性も解消された。 次に無機系イオン交換体としてゼオライトに着目し、同様に不飽和ポリエステル樹脂に充填した。シリカおよびゼオライト充填材の配合比は体積比(かさ密度)でマトリックス50%:フィラー(ゼオライト+シリカ)50%が最も均一に分散することを明らかにした。さらに、ゼオライト充填樹脂に関してはゼオライトのイオン交換機能が熱硬化性樹脂の耐食性にどのような影響するのかを検討するために10mass%の水酸化ナトリウム水溶液で浸せき試験を行い、質量変化率、曲げ強度保持率、EDS分析(東工大所有)によって、試験片に侵入したNa元素の深さなどを検討した。結果、シリカのみを充填した材料に比べてゼオライト充填材の試験片はNaの侵入を抑制していることが分かった。以上の結果から、ゼオライトのようなイオン交換機能を有した添加物を充填することにより、劣化を制御する可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は有機系イオン交換体および無機系イオン交換体粒子を熱硬化性樹脂(不飽和ポリエスエル樹脂)に充填した試験片の「作製」について まずイオン交換樹脂についてはスチレンジビニルベンゼン製のマトリックスにはナノスケールの細孔が存在し、その細孔に溶液が浸入することによってイオン交換が行われる。イオン交換樹脂の物理的処理は500マイクロメートル程度のイオン交換樹脂を10マイクロメートル程度に粉砕する必要があり平成24年度経費に計上した小型粉砕機によって粉砕したが、購入予定の機器が不適合との情報を得て急遽変更した。結果、マトリックスである熱硬化性樹脂とイオン交換樹脂の物理的結合(吸着)を向上させることによって機能が向上し、計画に沿った結果となったと考えられる。 イオン交換体としてゼオライトを利用し、これを熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂に添加し、アルカリ性水溶液において浸せき実験を行い、劣化制御を目的とした複合材料開発の可能性を検討したところ、ゼオライトを充填することで、Na元素の侵入を抑制できることを確認した。したがって、イオン交換体であるゼオライトを不飽和ポリエステル樹脂に添加し、水酸化ナトリウム水溶液中における劣化について検討した結果、シリカ充填材に比べてゼオライト充填材の試験片はNaの侵入を抑制していることが分かった。以上の結果から、ゼオライトのようなイオン交換機能を有した添加物を充填することにより、劣化を制御する材料開発の可能性を見出している。 これらの成果について「製作」に関する内容を日本材料科学会 第19回若手研究者討論会において、「侵入の抑制効果」に関する内容を第78回化学工学会年会においてそれぞれ発表している。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は有機系イオン交換体(イオン交換樹脂)充填不飽和ポリエステル樹脂の酸およびアルカリ水溶液中における劣化挙動および劣化抑制の効果を見出すことを目的とし、研究を行う。陽イオンおよび陰イオン交換樹脂をそれぞれ耐酸性に優れている不飽和ポリエステル樹脂に充填して試験片を作製する。これらを硫酸水溶液および水酸化ナトリウム水溶液、さらには塩化ナトリウム水溶液にそれぞれを浸せきさせ、所定時間浸せき後、試験片の重量変化率、曲げ強度保持率を求め、劣化の程度を観察する。 無機系イオン交換体(ゼオライト)充填不飽和ポリエステル樹脂に関しては、平成24年度から引き続き水酸化ナトリウム水溶液において浸漬試験を行い劣化挙動および劣化抑制の効果について検討する。 分析方法は、有機系、無機系イオン交換体充填不飽和ポリエステル樹脂ともにマトリックスの化学的劣化を検討するために、EDSによる分析の他に顕微IR(東工大所有)に顕微FT-IR用 ATR対物鏡を取り付け、マッピングによる解析を行う。この結果とEDSの結果と比較し、侵入元素と劣化の関係を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
有機系および無機系イオン交換体を充填することにより、複合材料の耐食性が向上することを見出した後、環境液の濃度、温度を変化させ熱硬化性樹脂の劣化に及ぼすイオン交換機能の影響を総括する。これまで得られた結果を踏まえ、国内もしくは国際会議での発表を予定している。
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