研究課題/領域番号 |
24760562
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
酒井 哲也 日本大学, 生産工学部, 准教授 (70376961)
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キーワード | 熱硬化性樹脂 / 耐食性 / 劣化制御 |
研究概要 |
熱硬化性樹脂に有機系および無機系イオン交換体フィラーを充填した複合材料を作製し、酸性環境、アルカリ性さらに中性水溶液で浸せき試験を行い、イオン交換体の化学反応によって耐食性を制御することが可能な複合材料開発を行う。 平成25年度は平成24年度において作製した有機系イオン交換体および無機系イオン交換体粒子を熱硬化性樹脂(不飽和ポリエスエル樹脂)に充填した試験片について、水酸化ナトリウム水溶液さらに精製水(水)に浸せきする耐久試験を行った。水酸化ナトリウム水溶液中における有機系(イオン交換樹脂)充填の試験片は添加物(陽イオンおよび陰イオン交換樹脂)の種類によって浸入の違いが現れるものの、強度が非常にもろく、平成24年度の条件では耐食性を付与させるのが困難であることが確認された。 次に平成24年度に作製したゼオライト(F-9,粉末:東ソー株式会社製)試験片について、さらに各種(A-3,粉末:東ソー株式会社製,HS-320,粉末:東ソー株式会社製)のゼオライトを用意し同様に不飽和ポリエステル樹脂に充填した。平成24年度と同様に10mass%の水酸化ナトリウム水溶液に浸せき試験を行い、試験片の重量変化率、曲げ強度保持率、EDS分析(東工大所有)によって、試験片に侵入したNa元素の深さなどを検討した結果、ゼオライト充填材の試験片はNaの侵入を抑制していることが分かり、かつ同充填量では種類によって浸入挙動が大きく異なることも明らかになった。以上の結果から、ゼオライトのようなイオン交換機能を有した添加物を充填することにより、劣化を制御する材料開発の可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は有機系イオン交換体および無機系イオン交換体粒子を熱硬化性樹脂(不飽和ポリエスエル樹脂)に充填した試験片の「浸入挙動の違い」について検討した。 まずイオン交換樹脂については粉砕機により微細化した試験片を充填したが、イオンの浸入挙動(特に水酸化ナトリウムのNa元素の浸入)には、陽イオン交換樹脂、陰イオン交換樹脂充填の違いによって変化が得られたものの、対水溶液に対する耐性は乏しい結果となった、具体的にはアルカリ環境では耐食性はあるものの、水ではイオン交換樹脂がイオン化し、マトリックス樹脂との接着性を弱くし、急激な劣化を起こす等、興味深い結果は得られたが材料への適応は厳しいものと考えられる。 平成25年度においてイオン交換体として3種類のゼオライトを利用し、これを熱硬化性樹脂である不飽和ポリエステル樹脂に添加し、アルカリ性水溶液において浸せき実験を行い、劣化制御を目的とした複合材料開発の可能性を検討したところ、ゼオライトを充填することで、Na元素の侵入を抑制できることを確認した。さらに、種類によって違いがあらわわれることも確認している。さらに、Naの浸入した深さと液が浸入した後を示す変色層(液浸入層)の深さを比較したところ、ゼオライトの種類にかかわらず、Naの浸入に比べ、液浸入層が大きい結果となっている。この現象はこれまでの知見でNaと液浸入層は同じ厚さであり、その層は環境液によって劣化した層であるという結果と異なる。これは材料の劣化と浸入の関係について大変興味深い結果であり、今後このメカニズムを解明することで耐食性を考えた複合材料の開発に寄与するものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は平成25年度までに効果が確認されたゼオライト充填材料に重点をおきアルカリ水溶液中における劣化挙動および劣化抑制の効果を見出すことを目的する。具体的には液浸入深さとNa浸入深さの違いについて検討する。さらに、液浸入深さがマトリックス樹脂の劣化深さと同等、もしくはNa浸入深さと同等など、熱硬化性樹脂の劣化機構にかかわる問題についても検討するつもりである。 同時に、イオン交換樹脂に関する研究およびゼオライト充填材料について酸性環境についても検討することを予定している。 分析方法は、有機系、無機系イオン交換体充填不飽和ポリエステル樹脂ともにマトリックスの化学的劣化を検討するために、EDSによる分析の他に顕微IR(東工大所有)に顕微FT-IR用 ATR対物鏡を取り付け、マッピングによる解析を行う。この結果とEDSの結果と比較し、侵入元素と劣化の関係を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
これまでの試験片は熱硬化性樹脂に粉末であるイオン交換体を投入し撹拌後、真空デシケーター内で脱泡させたのち後注型をしていた。しかし、ゼオライトや、陰イオン交換樹脂に関しては温度の影響を受けやすく、試験片作製に支障をきたすことが平成25年度夏以降に確認された。そのため、平成25年度において恒温真空乾燥器の購入を検討したが、これまでの試験作製方法との整合性に時間がかかること、恒温真空乾燥器が高額であることから次年度に繰り越した。 平成25年度に検討した恒温真空乾燥器を平成26年度前期に購入し、これまでの試験片作製方法と整合性を確認したのち、恒温真空乾燥器によって作製した試験片によって実験を行う。
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