研究課題/領域番号 |
24760564
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池田 弘 九州大学, 産学連携センター, 助教 (80621599)
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キーワード | 多孔質 / 有機-無機ハイブリッド / ガラス / フラクタル |
研究概要 |
ナノからミリメートルまで階層的かつ様々な大きさの細孔を持つ多孔質は、巨大な比表面積と、多様な細孔に由来する流路が存在するため、触媒担体や分離をはじめとする種々の機能性の発現が期待される。しかし、このようなフラクタル多孔質の作製方法は確立されていない。そこで本研究では、ミクロ孔(<2nm)、メソ孔(2~50nm)、マクロ孔(>50nm)を階層的に形成する手法を開発し、フラクタル多孔質の作製とその応用を目指すものである。 本年度は、メソ孔を有するシリカ多孔質の光学的な応用を行った。以下に主な結果を示す。 フュームドシリカナノ粒子とポリビニルアルコール(PVA)からなるサスペンションを調製し、10~30nmのメソ孔を有するSiO2-PVAナノコンポジットを作製した。得られたメソポーラスナノコンポジットをテルビウム硝酸溶液に浸漬した後、600℃でPVAを燃焼させ、1100℃でシリカ粒子同士を焼結することによってTbドープシリカガラスが得られた。作製したTbイオンドープシリカガラスは、紫外から可視域において透明であり、254nmの紫外光を照射することによって、3価のTbイオン由来の緑色の蛍光を示した。このことから、本手法を用いることにより、発光特性を有するシリカガラスの作製が可能であることが分かった。次に、メソポーラスシリカの浸漬時間や溶液濃度によるTbイオンドープシリカガラスの蛍光特性の制御を行った。その結果、浸漬条件を最適化することによって、約2wt%のTbイオンをドープすることにより紫外線の照射により強く発光するシリカガラスが得られた。以上の結果から、SiO2-PVAナノコンポジットのメソ孔を利用することにより、シリカガラス蛍光体へ応用できることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、フラクタル多孔質の応用として、メソポーラス有機-無機ナノコンポジットを用いたシリカガラス蛍光体の作製に取り組んだ。シリカガラスは、光透過性、化学的・熱的安定性に優れており、各種機能性イオンのマトリックスとして有望である。これまでバルク状のシリカガラスに希土類イオンなどをドープするためにはゾル-ゲル法が一般的であった。ゾル-ゲル法は所望のイオンをガラス中にドープすることができるが、乾燥中や焼成中に亀裂が生じ易く、大きなバルク状のガラスを作製することは困難である。そこで本年度は、メソポーラス有機-無機ナノコンポジットをガラス前駆体として用い、Tbイオンをドーパントとしたバルク状のシリカガラス蛍光体の作製方法について検討した。その結果、メソ孔にイオンを吸着させた後に焼成することにより、数cm以上のバルク状のシリカガラスが作製可能であることが分かった。本手法は、ゾル-ゲル法に替わる機能性材料の作製方法であることが示された。したがって、本年度の研究はおおむね順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
ミクロ、メソ、マクロ孔を有するフラクタル多孔質を作製するため、ナノコンポジット法によるメソ孔の細孔形成とゾル-ゲル法によるミクロ孔の作製を試みる。特にPVAの組成比とサスペンションのpHにより、SiO2とPVAの分散・凝集状態を制御できることを利用して、細孔分布の制御を行う。作製したポーラス材料の多孔質構造は、SEM、EDX、細孔分布測定、フラクタル次元解析などを用いて評価を行い、得られた結果を材料設計指針にフィードバックすることにより、高度に発達した細孔を有する多孔質を開発する。 さらに、多孔質材料の細孔を利用した機能性材料の開発を検討する。作製した多孔質材料は、大きな比表面積を持つことから、金属イオンの吸着材として利用可能である。多孔質に所望の金属イオンを吸着させ、焼成などの処理をおこなうことによって、光・電子機能を付与した機能性材料の作製を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度は、試薬や実験器具の消耗品を有効活用したため物品購入費を抑えることができた。また、出張に関しては、国際学会に参加せずに国内学会にとどめたため、当初の予定より旅費が少なくなった。さらに、昨年度からの繰越金をそのまま来年度に繰り越したため、次年度使用額が生じた。 多孔質材料の評価装置を購入する。また、材料を作製するために必要な試薬やビーカーなどの実験消耗品を購入する。さらに、得られた結果を国内外に広く公表するため、学会発表および論文出版を活発に行う予定である。
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