脆性破壊は突発的に発生し,甚大な被害を与える可能性があるため確実に防止する必要がある.本研究では,ミクロスケールでの脆性き裂伝播による破壊形態を詳細に把握するための系統的な実験・計測を行い,その微視的メカニズムを考慮して,へき開亀裂伝播を定量的に評価可能なモデルの構築を行うことを目的とする. まずフェライト鋼を対象に,単一の結晶粒内のへき開面の形成形態に着目した系統的な実験・計測を行った.試験温度をパラメータとした破面観察および計測を行った結果,SEM画像を用いて計測した破面単位は低温ほど細分化する傾向が定量的に示された.このような結晶粒内部のへき開面形成を幾何学的に再現するために,破面形成を評価する着目結晶粒とそれに隣接する結晶粒を含む局所領域を定義し,粒界突破条件として限界破壊応力説に基づく局所アレスト靱性を仮定した数値モデルを構築した.本モデルを用いた解析により実験において試験温度が破面単位に与える影響と同様の傾向を再現することができた. また,へき開破壊は巨視的に必ずしも直線的に伝播するとは限らない.特に,亀裂の分岐については未だに発生メカニズムが未解明であり,定量的な評価手法も確立していない.このような観点から,まず破壊試験で得られた破面の詳細な観察結果を実施した.この結果,分岐の発生は2次元的な亀裂のキンクにの形成に起因することが明らかとなった.この実験による知見を考慮し,分岐亀裂の発生可能性を評価する数値モデルを構築した.破壊試験との比較による妥当性検証の結果,本モデルにより分岐亀裂の発生可能性および分岐後の亀裂伝播方向も予測可能であることが示唆された.
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