研究課題/領域番号 |
24760571
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
吉野 正人 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (10397466)
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キーワード | 蛍光体 / シンチレータ材料 / レーザ材料 / 希土類イオン / 発光 |
研究概要 |
励起エネルギーの吸収と希土類イオンへのエネルギー伝達について第一原理計算より調べるため、基底状態における希土類イオン添加酸化物の母体および希土類イオンの電子状態を調べる検討を行っている。希土類イオンの母体中での占有サイトおよび価数によってその電子状態は異なり、実際の物質中では複数の状態が混在している可能性もある。そこで、はじめに、希土類イオンの母体中での占有サイトおよび価数について評価を行った。 試料作製および実測スペクトル測定を行っているPrイオン添加SrY2O4を対象として、SrY2O4中のYサイトおよびSrサイトにPrが置換した際の固溶エネルギーを第一原理計算により求めた。電荷補償の観点から、(1)Y3+サイトの場合はPr3+として置換するものとし、Sr2+サイトの場合は(2)Pr3+として置換してさらに1/2個のSr2+欠陥が生成する条件と、(3)Pr4+として置換してさらに1個のSr2+欠陥が生成する条件を計算した。 2種類あるYサイト(Y1, Y2とした)のうち、より歪んだY1サイトの方がPr3+の固溶エネルギーが低い結果となった。しかし、Y2サイトの場合との差は約0.2 eVと小さく、高温での試料作製ではいずれのサイトにも固溶すると考えられる。さらに、Sr2+サイトにPr3+が置換する(2)の条件でも、最安定なY1サイトとの差は約0.5 eVであり小さい。さらに、Pr4+がSr2+サイトに置換する(3)の条件でもその差は約0.9 eV程度であった。ほぼYサイトしか占有しないYAGにPrが固溶する場合は、他のサイトとの固溶エネルギーの差は2.1-2.8 eVと、SrY2O4の場合のそれと比べて大きい。この結果から、SrY2O4中でPrは、Pr3+およびPr4+としてYサイトだけでなくSrサイトにも置換する可能性は十分にあると言えることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では希土類添加酸化物中の希土類イオンの価数および占有サイトをXAFS解析によって進め、また多重項計算より理論吸収スペクトルを求めて実測スペクトルと比較する予定であったが、計算による希土類イオンの価数および占有サイトの解析、またホストを含めた基底状態の電子状態解析の整理を計画に加えて先に行っている。このことより当初計画より遅れて上記実験、計算の計画を行うため研究期間延長することにした。追加した計算研究を進めている点と上述の遅れを総合してよりやや遅れているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
前年度までより継続して合成試料および周辺組成試料の遷移スペクトルの解析を行うとともに、それら試料に対して、希土類イオンの価数がどの程度の存在比となっており、またそれがホスト酸化物中にどのサイトに入っているかを検討するための測定および解析を行う。また、希土類イオンを添加したホストの電子状態および希土類イオンの多重項エネルギー準位を計算することで、ホストのバンド間遷移と4f-5d遷移、4f-4f遷移の関係について調べる。加えて、光電流測定により実験からもホスト希土類イオン間のエネルギー移動に関する情報を得ることを検討する。これらより、シンチレータ材料およびレーザ材料に適したそれぞれ、4f-5d遷移による発光および4f-4f遷移による発光を示す材料に必要な条件を求め、また材料設計を検討する。また、透光性多結晶体を作製する検討も引き続き行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備の紫外可視分光光度計が特別価格にて購入できたことと、上記装置の測定で基礎情報を得た試料について光電流の測定による禁制帯幅や不純物準位の情報を得ることが有用であることを着想したため、未使用額を使って測定可能にする計画をたてた。加えて、合成条件の決定段階の試料があり測定用試料合成分が未使用額となった。一部の成果発表を上記に関連する内容を纏めた後に予定変更した。 光電流測定に必要な装置部品である、電位計もしくはシンクロスコープ、試料ステージ、装置ケース、計算機などを、装置に必要な仕様を決定後に購入予定している。また、一部合成予定試料の測定用試料に必要な消耗品の購入と測定に必要な使用料支払等を行う。これまでの成果と上記装置、試料を用いた研究の成果を併せて成果発表、成果の投稿を行う。
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