エネルギー消費量低減のため,自動車などの移動体構造材料の高比強度化が求められている中,複合組織鋼などの高強度構造用材料が注目されている.これらの高強度材料は優れた比強度と一定の延性を両立させるため複相かつさまざまなスケールの構造からなる複雑な組織を有し,さらなる性能改善及び効率的な構造設計のため組織と塑性変形挙動の徹底した解明が必要とされている.複雑な組織を,マルチスケールかつ異相境界部における変形挙動を含めて解析するため,電子顕微鏡による組織観察とインデンテーション試験による局所変形の導入を組合せることで定量的な組織解析と変形挙動解析を行った.まず,比較的単純な系である極低炭素マルテンサイト鋼を用いて高強度を担う組織であるラスマルテンサイトの組織解析を行い,さらにインデンテーションを用いて変形組織の解析を行った.歪の定量化には有限要素法による計算結果を参照し,微細組織の変化を定量的に捉えるために透過型電子顕微鏡と走査型電子顕微鏡を併用して空間分解能と定量性を相互に補完した.次に得られた結果を基に,より実用鋼に近いフェライト/マルテンサイト複相鋼を用いて同様の手法で変形伝達挙動を調査した.また,その過程で必要となったため,複相鋼におけるマルテンサイト領域の結晶学的解析を行うプログラムを作成し,自動的かつ定量的なデータ取得と解析を行った.こうして得たデータを基に,単純なモデル化による破壊と組織の関係や巨視的変形挙動に大きな影響を及ぼす因子の推定を行った.本研究の成果であるデータを他の研究者に提供し,精緻な計算機実験に活かすことで合金設計手法の発展に貢献できると考えている.そして,今回用いた解析手法をより一般的に適用出来るような手法として整理し,公開することを計画している.
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