研究課題/領域番号 |
24760581
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
赤堀 俊和 名城大学, 理工学部, 准教授 (00324492)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 歯科用銀合金 / 固溶化処理 / ミクロ組織 / 力学的特性 / 強化機構 |
研究概要 |
市販の歯科用銀合金であるAg-20mass%Pd-14.5mass%Cu-12mass%Au合金に対して1123K程度まで温度を上昇させ固溶化処理を施すと、引張強さは1.0 GPaを超え、単純な固溶化処理のみで固溶化処理後時効処理を施した場合の同強度を超える特異な現象を示すことを現在までに明らかにしている。引張強さが通常の固溶化処理の場合と比較して2倍以上となる強化機構を固溶強化機構のみで説明することは困難であり、固溶化処理後の冷却中にPdCu金属間化合物(規則相)が析出することが示唆された。そこで、24年度における研究期間内にて、本合金の微細組織解析を行い、力学的特性の変化とその強化メカニズムについて考察し、歯科材料として更なる高力学機能化させることを目的とした。その結果、以下に示す研究成果が得られた。 1)受け入れまま状態の本合金のミクロ組織は、α1、α2およびβ相で構成されている。受け入れまま状態のAg-20mass%Pd-14.5mass%Cu-12mass%Au合金は、その後の固溶化処理により、α、βおよびβ’相の相構成へ遷移する。 2)溶体化処理状態の本合金では、α相中に長軸100 nmおよび短軸10 nm程度のβ’相(L10型)の整合析出が起こるが、さらに固溶化処理時間が増加するに従い、同相は逆に減少する。 3)β相が存在しない凝固処理およびその後の固溶化処理を施した本合金の硬さおよび引張強さは、受け入れままおよび溶体処理を施した本合金のそれより全体的に小さい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ag-20mass%Pd-14.5mass%Cu-12mass%Au合金において、固溶化処理時による特異な力学的特性変化が申請者らによって研究報告され、その解明のため24年度では、種々の凝固法を用いることで固溶化処理前の初期組織(主に構成相の体積率と分布)を系統的に制御した試料を複数作製することができた。この場合、本年度にて購入した消耗品類を有効に用いることにより、上記凝固試料を年度初期に準備することができ、研究計画に沿った実験が出来たと考えている。加えて、難加工材料である本合金の湿式研磨およびバフ研磨工程の短縮化ができ、ミクロ組織観察用試料の準備が容易となったことも本研究遂行に十分寄与したと考えられる。また、ミクロ組織の構成相の同定では、本年度にて購入した設備費(デスクトップX線回折装置用解析システム)を有効的に用いることで多数ある凝固および固溶化処理条件の試料全てに対して、緻密なデータ取得(構成相の種類、構成相の体積率、平均粒直径および機械的強度の測定等)およびその解析ができたと考えている。その結果、本年度の研究目的に挙げているミクロ組織と機械的強度の関係についてのデータ処理およびその考察がおおむね順調に進展したと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
25年度では、前年度の研究成果を基に実用を考慮した微視組織制御による特性改善についての調査・検討を行い、特異強化メカニズムを応用した力学的機能性の改善およびその歯科分野でのさらなる応用の拡大を検討する。 ・機械的強度評価:上述した種々の固溶化処理および固溶化時効処理を施した供試材ならびに冷却速度を制御した特殊凝固法により作製した本合金から、機械加工により平滑試験片を作製し、その試験片表面に#1500までのエメリー紙による湿式研磨を施す。引張試験は、容量20 kNのインストロン型引張試験機を用いて、クロスヘッド速度8.33×10-6 m/sにて、室温(295 K)の大気中にて行う。また、荷重は試験機のロードセルより測定し、歪の検出は試験片標点間に貼り付けた歪ゲージにて行う。 ・アノード分極試験による耐食性評価:上記と同様に作製した本合金を用い、人工唾液液中のアノード分極試験では、各試験片の不動態皮膜を一定にするために、5%NaCl溶液中にて-0.9 Vで600 sのカソード処理後、Arガス雰囲気におけるグローブボックス内にて蒸留水で十分に洗浄する。その後、各試験片を人工唾液液に浸漬し、自然浸漬電位が安定するまで保持(600 s以上)した後、上述の条件にて分極試験に供する。なお、本分極試験で用いた各水溶液および洗浄用の蒸留水は、200 ml/minのN2ガスにて脱気処理(1.8 ks以上)を施すこととする。 ・以上の研究成果をまとめ専門誌への投稿の準備を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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