研究課題/領域番号 |
24760586
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
遠藤 成輝 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 量子ビーム応用研究部門, 博士研究員 (40611893)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | TiFe / BCC / 水素吸蔵合金 / 高圧 / 放射光その場観察 |
研究概要 |
体心立方晶(BCC)型構造はその結晶構造中に、水素の格子間侵入サイトを1原子あたり9個も有している。しかし、BCC型Ti合金の常圧近傍における水素化反応ではこれらの多くが非占有で残存する。本研究はGPa級の超高圧力下で水素化反応を行い、常圧近傍では空席の侵入サイトへ強制的に水素を吸蔵させてBCC型Ti合金の高水素濃度化を図るものである。本年度はBCC型Ti合金の中でも最も典型的な水素吸蔵合金のTiFeに着目して研究を遂行した。このTiFeはBCC類似構造のCsCl構造を有している。 TiFeを5GPa, 600℃の高温高圧下で水素化させると、これまでに報告されている常圧近傍の水素化反応とは異なるプロセスを経て、新規なBCC構造の水素化物を形成することを発見した。常圧近傍の水素化の場合、TiFeはCsCl型構造の水素固溶体(α相)を形成した後、水素吸蔵とともに格子を歪ませて正方晶構造の水素化物(β相)、さらに格子を歪ませて単斜晶構造の水素化物(γ相)を形成する。一方、高温高圧下の場合では、CsCl構造の水素固溶体を形成した後、立方晶構造を維持したまま水素吸蔵による格子膨張を生じて水素化物を形成した。水素固溶体から水素化物相への構造変化は、規則相のCsCl構造から不規則相のBCC構造へ規則-不規則変態であることが分かった。高温高圧水素化反応によって、生成される水素化物相はBCC水素化物の1つのみであった。 BCC水素化物相は常圧近傍のフル水素化物γ相よりも水素吸蔵に伴う体積膨張が大きかった。この結果は高温高圧水素化反応により、常圧近傍よりも高濃度の水素量が吸蔵していることを示唆している。 以上より本年度の研究成果は、高温高圧水素化反応によってTiFeの新規水素化物を発見し、その水素吸蔵量が常圧近傍の水素化よりも増加する可能性を示したということにまとめられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した通り、初年度にはTiFeに着目して実験を行った。その結果、高温高圧下で生成される新規なBCC構造の水素化物を発見した。このBCC水素化物は常圧近傍の水素化条件で調製される最大水素量のγ相よりも、水素吸蔵に伴う体積膨張が大きかった。この結果からBCC水素化物がγ相より高濃度の水素量を吸蔵していることが示唆される。加えて高温高圧水素化反応では水素によって金属格子中に空孔が多量に導入され、空孔が水素をトラップすることで水素量が増加することが報告されている。そのため体積から見積もられる水素量よりも多くの水素が吸蔵されている可能性がある。 以上より新規水素化物を発見し、高水素濃度化の可能性を示唆する成果が得られているため、本課題はおおむね順調に進展しているものと判断する。 これらの成果は国内学会(2件)および国際学会(2件)で発表し、論文発表も行っている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はまず、初年度に発見したBCC型TiFe水素化物の水素吸蔵量を調べることを予定している。それは高温高圧水素化反応によって、TiFeの水素量が常圧近傍の水素化よりも増加するのか否か明らかにするためである。BCC水素化物は高温高圧下でのみ存在する。そのためBCC水素化物の水素量を評価するためにBCC水素化物の格子体積と、常圧近傍で得られる最大水素量のγ相の格子体積を同一高温高圧条件下で比較することで見積もることを計画している。加えて水素によって導入される空孔の影響についても明らかにする。 この他には申請書で記載した通り、TiFe系以外のBCC型Ti合金も調べることを予定している。着目する合金は周期表でFeと隣接しているCo, Niと合金化した、TiCoおよびTiNiである。これらの合金試料は初年度に導入したIR炉を用いて既に作製済である。これらの高温高圧水素化反応の調査には、初年度のTiFeで得られた実験手法・技術を適用して研究を推進するものとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請書の予定通りに実験に必要な消耗品に10万円を計上する。国内学会および国外学会発表のために、旅費を45万程度を計上する。論文校閲費として5万円を計上する。初年度からの繰越金は主に消耗品および論文校閲費として使用する予定である。
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