最終年度は初年度に発見した体心立方晶(BCC)型TiFe水素化物の水素吸蔵量を調べた。高温高圧水素化反応によって新規に見出されたBCC構造の水素化物は、水素吸蔵に伴う体積膨張が常圧近傍の場合よりも大きな値を示した。一般に、侵入型の金属水素化物は水素吸蔵量に比例して体積が膨張する。そのためBCC水素化物の水素吸蔵量は、常圧近傍で調製される水素化物(γ相)よりも多いことが示唆された。BCC水素化物は高温高圧下でのみ存在したため、定量的な水素吸蔵量の評価が困難であった。そこで間接的な評価ではあるが、水素吸蔵量が既知のγ相の格子体積とBCC水素化物の格子体積を同一の高温高圧下で比較することで、水素吸蔵量を見積もることとした。BCC水素化物の格子体積が大きければ、水素吸蔵量が増加したと考えることができる。 本実験を行うには高温高圧実験の前に、γ相を調製することが必要である。しかし二元系TiFe合金の場合では、活性化処理が煩雑で時間もかかりγ相の調製が難しい。そこでFeの一部をMnで置換した三元系TiFe0.8Mn0.2合金に着目した。この合金は活性化処理をしなくても水素を吸蔵し、γ相を簡単に調製できるメリットを有している。さらに水素吸蔵量はH/M=0.9と二元系合金に近い。 両水素化物の格子体積は以下の条件で行った。温度は400℃に固定し、圧力範囲は6-4GPa(0.5GPa毎に測定)であった。その結果、いずれの圧力においてもBCC水素化物の格子体積は、γ相の格子体積の誤差の範囲内であり、優位な差はなかった。この結果より、BCC水素化物とγ相はほぼ同一の格子体積を有することが明らかとなった。同時にこれは、BCC水素化物の水素吸蔵量はγ相にほとんど等しいことを示している。われわれは二元系合金の場合でも同様の結果が得られるものと考えている。
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