本研究では、ジェットエンジンにて実機使用した単結晶Ni基超合金の第一段高圧タービンブレードについて、詳細な組織観察を実施し、金属組織学的知見に基づいて、実機稼働中の温度・応力および応力方向の推定を実施した。 組織観察は、ブレード先端、中央、付け根部の腹および背側のリーディングエッジからトレーリングエッジへかけて、約7mm間隔の位置において、ブレード表面のコーティング層から内部冷却孔へ5mm間隔の各部位での(001)および(100)について、SEMを用いて実施した。 その結果、部位によってNi基超合金の強化相であるγ’相の形態が大きく異なり、背側に比べ、腹側でより形態変化が進展していた。さらに、クリープひずみが導入された際に形成される、板状ラフト構造が各部に観察された。ラフト構造の形成方向は、トレーリングエッジ部ではブレード長手方向と垂直方向の(001)と平行であるのに対し、他の部位では(010)と平行となっていた。したがって、実機稼動中のブレードには、トレーリングエッジではブレード長手方向の引張応力が主応力であるのに対し,他の部位では熱応力によるブレード内部方向への引張応力あるいは多軸の圧縮が生じていると推測された。 一方、付け根部および内部冷却孔近傍では大半のγ’相は立方体状であり、組織形態からの応力推定は困難であった。そこで、クリープひずみが付与された試料に対し、高温で単純時効を施した際、ラフト構造を形成するとした知見を活用し、ブレード各試料に単純時効を実施した。その結果、リーディングエッジ側内部、付け根部表面近傍で、板状ラフト構造の形成が生じたことから、低温環境下で回転および冷却に伴う高い応力が負荷されていると推察された。 以上の結果から、γ’相の形態に基づくブレードの温度・応力および応力方向の定性的な推定が可能であることを明らかにした。
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