研究課題/領域番号 |
24760603
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
亀山 雄高 東京都市大学, 工学部, 講師 (20398639)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | ピーニング / めっき / 表面改質 / 密着性 / 複合粒子 / アルミニウム / 移着 / 難めっき材 |
研究概要 |
本研究は,微粒子ピーニング(FPP)をめっき前処理として適用し,アルミニウム基材の表面に銅を移着させる(本研究では,FPPに用いた粒子の一部が脱落し,基材上に残存した状態になることを,移着と呼んでいる)ことで,高い密着性を有するめっきを被覆できるようにする手法の開発を目的としている.平成24年度は,微粒子ピーニングによる移着現象についての基礎的検討およびFPP条件が銅の移着に及ぼす影響を明らかにする計画であった. 具体的にはまず,FPPによって銅を移着させるために用いる,銅/鋼複合粒子を作製した.置換銅めっき法により,鋼粒子の表面に厚さがおよそ2μmと推定される銅被膜を析出させることができた.作製した複合粒子を用いてFPPを施すことで,被処理材表面に銅と鋼の双方が移着した.複合粒子の硬さが基材の硬さと比べて十分に高い場合には,銅の移着量は,基材硬さの増加とともに増加しその後減少に転じる傾向を示したが,その差は極めてわずかであると判断した.一方,移着した銅や鋼が,基材内部にも埋入されてアルミニウム母材と積層状に混在していることが明らかとなった.以上の成果により,FPPを用いてアルミニウム基材へ銅を移着させるための方策を明確にできたとともに,その改質挙動についての知見が得られた. 複合粒子を用いたFPPを施したA1070アルミニウム基材に対して,電解ニッケルめっきを試みた.その結果,FPP処理面に沿って,良好な被膜析出が認められた.つまり,FPPによって銅を移着させた表面に,めっきが可能であることが見出された.ただし,その密着性については今後定量的な評価が必要であり,FPPを施していない状態の基材へめっきを被覆した場合との比較検討を,来年度に進めていきたい.めっきの密着性を支配する要因について検討を加えていくことも重要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度には,微粒子ピーニング(FPP)によって生じる移着現象についての基礎的検討およびFPP条件がCu移着に及ぼす影響を解明することが目標であった.この目標に見合う成果が得られていると判断しており,研究の進捗は概ね順調であるといえる.ただし,研究計画のなかで想定していた実験のうち,基材硬さおよび粒子硬さが移着挙動に及ぼす影響について調べる実験に関しては,前者に重点を置いて取り組む結果となった.これは,研究計画立案の時点では,研究の効率的な推進を狙いとして銅/鋼複合粒子の作製を業者に外注することを予定していたが,本研究で用いるのに適当な粒子を作製するのは困難との旨が研究着手後になって当該業者から回答されたことによる.粒子の作製を外注できなかった分,独自に粒子を作製するために少なからぬ研究時間を費やさざるを得なかったことから,実用的観点も踏まえて優先順位をつけ,当初の研究計画のうち一部を割愛せざるを得なかった点が残念である.その反面,当初は平成25年度に見込んでいた,FPP処理面へのめっきの試行に先倒しで着手できたなど,順調に進捗している面も存在する.
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今後の研究の推進方策 |
H25年度には,FPPを前処理として施したAl基材へ電解Niめっきを施し,その密着強度を定量的に評価する計画である(当初計画では無電解Ni-Pめっきを利用する予定だったが,予備実験の結果銅基材上にめっきが容易であった電解Niめっきを用いる方針としたい).ここでは,FPPによる『基材へのCuの移着』『基材硬さの上昇』『基材への微細凹凸形成』という3つの作用のそれぞれが,めっきの密着強度に及ぼす影響を,個々に抽出して解明することを試みる.特に,平成24年度の実験の結果,銅/鋼複合粒子を用いてFPPを施すと,銅のみならず鋼の成分も移着していることが明らかとなった.鋼の移着,言い換えればFe元素が表面に存在することによりめっきの密着性にいかなる影響が及んでいるのかという点についても検討を加える必要がある. これらの研究を遂行する上で重要となるのが,密着性の評価である.当初,垂直ピーリング試験(油圧式試験機を用いてめっき被膜をチャックした状態で基材表面に対して直行する方向に引張り膜をはく離させる)によって行うことを予定していた.しかしながら,FPP処理面上に被覆しためっきの凹凸はきわめて顕著であるため,この方法がうまく適用できるかどうかも課題になると考えている.善後策として,めっき被膜を摩耗試験に供し,膜はく離の挙動を調べる,めっき業界で密着性の定性的評価法としてしばしば用いられる曲げ試験法を適用するなどの方策も検討する. なお,研究成果の公表に関しては,平成24年度中にはその機会を得られなかったため,平成25年度の課題としたい.
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次年度の研究費の使用計画 |
粒子を外注ではなく内製としたことで,結果的には当初見込んでいた粒子作製の外注費がねん出された形となった.24年度の研究費の執行額が計画と比べて大幅に少ないのはこのためである.ねん出された経費は,現在課題となっている密着性評価のための実験機器の導入に充てることにより,研究目的の達成を図りたい.具体的には,密着性評価用治具の作製や,密着力評価用のセンサ,密着性の定性的評価を行う上で必要となる観察・分析器具等の購入を考えている.その他,当初計画に基づき実験用消耗品等の購入に次年度の予算を充てたい.
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