研究概要 |
プロトン伝導性酸化物で期待の高いYをドープしたBaZrO3について,1600℃での長時間の熱処理後も安定に存在するナノ結晶相に注目して,この相を利用したプロトン伝導性の向上の可能性を検討した.ナノ結晶相の生成過程の解明を目的として,ナノ結晶相の生成過程に影響を及ぼすと考えられる液相からの凝固過程について検討した.1600℃での焼結温度での保持後,冷却過程がナノ結晶相の生成に重要な影響を与えると考え1600℃から800℃までの冷却時間を変化させた試料を合成することとした.試料はYドープのBaZrO3単相の組成のほか,液相との共存が示唆される組成について,いずれも固相反応法で合成した.基本的な組織観察(粉末XRD,SEM, EDX, TEMによる観察)のほか,ICP-MSによる試料合成各過程での平均組成の測定,伝導度測定を実施した.また顕微ラマン分光法による微細構造の測定も実施した.なお,固相反応法での粉末原料の微細粒子への粉砕及び均一混合を目的として,遊星型ボールミルによる混合を実施し,ポット,ボールなどからの混合操作に伴う不純物混入量についても合わせて評価を行い,粉砕過程よりも熱処理プロセスによる組成変動が大きいことが分かった. 1600℃から800℃までの冷却時間を1.5h,6h,30hとした場合を比較したところ,冷却時間を長くしても,マクロには得られる組成が変化しないことが分かった.またBaZrO3単相領域の組成で合成した試料では,組成の変化は焼成前後でICP-MS, EDSのいずれにおいても大きな変化は認められなかった.液相が共存する組成では組成変動が大きいことがわかり,ナノ結晶相の組成の変化が大きいことが予想された.ラマン分光測定の結果により,冷却速度を遅くすることで,BaZrO3へのYの固溶量の減少が示唆された.また,電気伝導度は冷却速度が遅いほうが低くなることが示された.
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