前年度開発した溶接時応力その場測定システムを改善した。3台のPILATUS二次元検出器(サイズ:40×80mm×2台+120×80mm×1台、ピクセルサイズ(空間分解能):0.172mm2)を利用することで、応力形成と相変態過程の同時計測を可能にした。また、in-situ測定した膨大な2次元X線回折データに対する解析システムも開発した。これらを組み合わせ、0.5平方ミリメートルの空間分解能で、溶接金属~熱影響部~母材までのミクロ組織状態、および応力分布の時間変化を世界最速0.1秒の時間分解能で計測することに成功した。本手法を炭素鋼試験片における溶接冷却過程その場時分割測定に適用した結果、試験片全体の応力形成は熱収縮と固相変態(マルテンサイト変態)が大きく関与することを実測により初めて明らかにした。 一方、その場測定した結果の詳細を明らかにするためには、計測する試験片の高温中におけるヤング率やポアソン比などの物性値を計測し、それらの結果から導かれる応力係数と温度の関係を明らかにする必要がある。そこで、開発した二次元検出器走査システムを活用し、既存の高温負荷装置により炭素鋼の高温物性を実測した。これにより室温から700℃まで8つの温度域でそれぞれに引張実験を実施し、ヤング率やポアソン比、熱膨張係数などの高温物性値が得られた。またK/R型熱電対を利用し、溶接過程における試験片熱影響部から母材までの温度分布を取得した。 これらの技術開発、それを応用した溶接その場測定により、これまで得られなかった溶接過程中の応力評価が可能となり、相変態分野に新しい視点を与えることができると考えている。今後、本結果と有限要素法によるシミュレーションモデルと比較し、さらに検討を進めていく予定である。
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