世界最強の永久磁石であるNd-Fe-B系焼結磁石には、希土類元素(レアアース)のネオジム(Nd)やジスプロシウム(Dy)が使用されているが、その鉱石・素材生産は中国に独占されている。そのため資源の供給が不安定であり、近年は供給が一時停止するなどの問題が発生している。そこで、報告者らは、磁石廃棄物中のNdやDyを効率よく再資源化するプロセスの開発を行っている。その方法は、磁石廃棄物に弗化物を混合、溶融して、廃棄物中の不純物(特に酸素)を抽出除去するというものである。 このリサイクルプロセスを実用化するためには、酸素の除去限界を原理的に推定する必要がある。そのためには、希土類元素(Ln)の酸化弗化物(オキシフルオライド,LnOxFy)の高温での熱力学特性、特に標準生成ギブズエネルギー変化の情報が必要である。しかし、希土類のオキシフルオライドの熱力学的な研究はこれまでに皆無であった。そこで、本研究では、LnOxFyの標準生成ギブズエネルギー変化を測定・決定することを目的とした。 これまで起電力法を用いてLnOxFyの標準生成ギブズエネルギー変化を決定する試みを行ってきたが、前年度に引き続き装置の改良を行って発生する起電力の安定化を図った。そして、NdOF、DyOFおよびLaOF(La:ランタン)の起電力測定の再試験を行い、良好な再現性が確認された。さらに、SmOF(Sm:サマリウム)の標準生成ギブズエネルギー変化を決定した。得られた値は、過去の文献値と差異が大きかったが、NdOF、DyOF、LaOFの値と同じ水準であり、今回得られた値の方が合理的と考えられた。
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