半導体材料の結晶成長,自動車ボディーの高品位溶接,超耐熱合金を用いたジェットタービン翼の精密鋳造などの,高付加価値高温融体プロセスを最適化する際,融体の自由表面形状やマランゴニ対流の効果を考慮するための,正確な表面張力の値が必要である.しかし,純金属融体においてさえ,それが十分に整備されているとは言い難い.この理由の一つとして,強力な表面活性元素である酸素が,雰囲気中にも気相として存在しうることが考慮されていない事が挙げられる.過年度までの研究から,鉄,ニッケル,銅融体に対する酸素吸着と温度の影響について明らかにした.そこで今年度は,これらの基礎データを元に,合金融体の表面張力について,酸素活量や組成の観点から明らかにする事を試みた. その結果,溶鉄に脱酸材であるシリコンをppmオーダーで微量添加すると,雰囲気酸素分圧が比較的大きい場合でも,表面張力は高くなり,酸素吸着のない純粋な表面張力の値に近づいた.また,添加量が多いほど表面張力が高くなった.しかし,シリコン添加量を%オーダーまで増やすと,表面張力は低下する傾向となった.これらの理由として,シリコン添加によって酸素吸着が抑制されるものの,添加量が多い場合はそれ自体が表面偏析し,系全体の表面エネルギーを低下させる為である可能性が考えられた. また溶鉄および溶融シリコンの表面張力に対する温度係数は異なるため,高温ではこれらの表面張力の大小が逆転し,表面偏析元素が入れ替わる可能性が考えられた.しかし超高温加熱では,試料蒸発や組成のバラツキの問題から,測定の不確かさが大きくなり,それを明らかにする事が困難となる事が分かった.
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