研究課題/領域番号 |
24760618
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研究機関 | 学習院大学 |
研究代表者 |
水野 章敏 学習院大学, 理学部, 助教 (10348500)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 高温融体 / 液体構造解析 / 放射光X線回折 / ゾーンメルト |
研究概要 |
本研究の目的は、融点が2000K以上の高温融体の一方向凝固を利用し、凝固界面近傍における幾何学的原子配置をその場観測することにより、凝固現象における液相構造と固相構造の相関を原子スケールで明らかにすることである。具体的には、(1) X 線回折に最適化したレーザー加熱型ゾーンメルト法による高温融体の新たな精密構造解析手法の構築、(2) 溶融帯域における液相領域から境界層領域、さらに凝固相における幾何学的原子配置の決定、(3) 凝固界面近傍の液相における局所的秩序構造と凝固相選択との関連を明らかにすることである。 平成24年度は、上記目的の(1)および(2)について達成するため、レーザー加熱型ゾーンメルト装置を新たに製作し、SPring-8のシンクロトロン放射光を利用した高エネルギーX線回折実験の実施した。本年度の計画では、FeやSiなどの高融点の単体を研究対象としていたが、使用した炭酸ガスレーザーの波長の吸収率が低く、溶融状態を実現することが困難であった。したがって、試料をセラミクス材料であるアルミナへ変更することにより、凝固定常状態を実現し、高精度X線回折データの取得を可能とした。 本年度は界面及び凝固相の構造データ取得には至らなかったが、2500Kにおけるアルミナ融体の構造データの取得し、従来、申請者らが用いてきたガス浮遊法によって取得した構造データと比較して遜色のないデータを取得することに成功した。したがって、本手法が高温融体の構造データを取得するための手法として有用であることを実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の目的は、 (1) X 線回折に最適化したレーザー加熱型ゾーンメルト法による高温融体の新たな精密構造解析手法の構築、(2) 溶融帯域における液相領域から境界層領域、さらに凝固相における幾何学的原子配置の決定である。 目的の(1)については、レーザー加熱型ゾーンメルト装置を新たに製作し、SPring-8のBL04B2ビームラインへの設置および高エネルギーX線回折実験の実施まで到達したので、概ね目的を達成している。 目的の(2)については、高融点材料であるアルミナの液相構造データの取得には成功したものの、本来の目的であるFeやSiなどの単体についてはゾーンメルトに成功しておらず、また、境界相および凝固相の構造データの取得にも至っていない。また、液相の幾何学的原子配置の決定については、取得した構造因子の解析が必要となるが、単体原子の液相構造と比べて化合物の液相構造解析は格段に困難となり、解析期間を要するため、次年度における課題としている。したがって、目的の2)については達成度としては4割程度となり、本年度全体として達成度は7割程度と考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策について、具体的な事項を以下に示す。 1)平成24年度に製作した装置を改良し、溶融に使用するレーザーの波長を短波長へ変更することにより、Fe やSi など結晶成長の界面形態が異なる高温融体のゾーンメルト状態を実現する。 2)凝固界面近傍の固相、境界層、液相における幾何学的原子配置から原子間距離、配位数、結合角分布を詳細に調べ、短距離秩序を明らかにし、それぞれの領域における構造の相関を調べる。 3) 液相と固相における短距離秩序の情報から、原子配置の差によるエントロピー変化を見積ることで、界面エネルギーを算出し、凝固相選択との関連付けを試みる。 4) 単成分融体で確立した上記の手法を2 元系合金へ適用範囲を広げることにより、液相組成と析出初相の組成および構造との関連を明らかにし、平衡状態図で予測される結晶構造との対応を調べる。 5) 凝固界面近傍の液相に短距離秩序の発展により生じると考えられる長距離ゆらぎの存在を小角X線散乱実験を利用して検出を試み、ゆらぎを検出した場合には、ゆらぎのサイズ(~数十nm) を見積もり、さらに短距離秩序との関連を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度においては、ゾーンメルト装置の改良および放射光X線回折実験の実施のため、以下の計画により研究費を使用する。 不純物の影響に左右されやすい凝固現象を取り扱うため、高純度の金属試料を購入する必要があり、10万円程度使用する。また、化学的活性の高い溶融金属を取り扱うことによる雰囲気用高純度Ar ガス、真空チャンバー装置の維持に不可欠な真空部品、レーザー入射のための光学系部品などの消耗品購入のため、40万円程度使用する。 本研究の目的達成のためには、放射光X 線の利用が必須であり、これまでに課題採用実績が十分にあるSPring-8 の利用が妥当である。したがって、放射光実験にかかる費用として、24 時間の連続実験の際に補助をする大学院学生の旅費として2名× 5 万円× 2 回(20 万円)、製作した実験装置のSPring-8 への輸送費(東京-播磨)として10 万円を使用する。さらに放射光実験を実施する際に必要となる消耗品費として15万円を使用する。 成果の公表にかかる経費として、国内学会参加費、12月にアメリカで開催されるTHERME2013における研究発表のための出張旅費として25万円程度を使用する。
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