研究課題/領域番号 |
24760625
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
佐藤根 大士 兵庫県立大学, 工学研究科, 助教 (00583709)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 化学工学 / プロセス工学 / 粉粒体操作 / スラリー制御 / 環境技術 |
研究概要 |
圧力応答性ポリマーは、溶液の圧力の上昇により溶解度が低下し、析出するという特徴を利用し、圧力応答性ポリマーを用いて、ナノ粒子スラリーの粒子分散・凝集状態を簡便な手法で的確に制御する手法の確立を目的とした。本年度はまず、圧力印加により良分散状態のナノ粒子スラリーを凝集させる条件について検討した。 検証実験に用いる試料は、ポリマーについてはセラミックスの分散剤として広く使用されており安価に入手可能なアニオン系高分子分散剤のポリカルボン酸アンモニウムを、粒子については、水篩により平均粒子径を50nmとしたアルミナ粒子を選択した。pH調整および分散剤添加により良分散状態となるように調製したスラリーに圧力を印加し、スラリーにレーザー光を照射し、90度方向の散乱光強度を測定することでの分散状態がどのように変化するかを観察した。その結果、分散剤を添加せず、pH調整により調製したスラリーでは、400MPaを印加してもスラリーには何の変化も表れなかったのに対して、高分子分散剤を添加したスラリーでは、400MPaを印加すると散乱光強度が急激に上昇し、粒子が凝集した。また、実験後のスラリーは凝集後の粒子が沈降したことで透明な上澄み液を得ることができた。また、印加圧力を150MPaに低下させたところ、30分経過後には400MPaと同様の結果を得ることができた。さらに、圧力を印加してもポリマーが析出しない非常に希薄なポリマー濃度で同様の実験を行ったところ、先の実験と同様に粒子の凝集、沈降が発生した。これらのことから、圧力応答性ポリマーを用いたスラリーの分散凝集制御には、超高圧やポリマーの析出は必ずしも必要なく、ある程度の圧力で時間をかけることで、ポリマーの吸着形態を変化させることが重要であることが明らかになったため、その他の様々なポリマーでもこの手法を利用可能であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の主たる目的である、圧力応答性ポリマーを用いてナノ粒子スラリーの粒子分散・凝集状態を簡便な手法で的確に制御する手法の確立のため、本年度は圧力印加による良分散状態のナノ粒子スラリーの分散状態制御の可能性および、印加圧力やポリマーの析出の有無などの凝集させるのに必要な条件を明らかにすることを目的とした。 本年度行った研究により、pH調整により調製したナノ粒子スラリーは圧力印加による変化が無かったのに対し、ポリマーを添加することで調製したナノ粒子スラリーは圧力印加による凝集に成功した。さらに詳細な凝集条件について検討した結果、圧力応答性ポリマーを用いたスラリーの分散凝集制御には、超高圧やポリマーの析出は必ずしも必要なく、ある程度の圧力で時間をかけることで、ポリマーの吸着形態を変化させることが重要であり、これまでは適用外と考えていたその他の様々なポリマーでもこの手法を利用可能であることを明らかにした。凝集を確認した圧力は、当初の予定よりは高圧ではあったものの、時間をかけることで凝集させることが可能であることを示す結果が得られていることから、使用するポリマーを変えることで当初の理想としていた数MPa程度での制御も可能であると考えられる。 以上の結果より、本年度の目的としていた、圧力印加による良分散状態のナノ粒子スラリーの分散状態制御の可能性および、印加圧力やポリマーの析出の有無などの凝集させるのに必要な条件を明らかにすることはおおむね達成できたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、さらに様々なポリマーを用いて分散凝集状態制御の可能性を探るとともに、より低圧力でナノ粒子スラリーの凝集を可能とする条件の確立を目的とする。さらに、得られた知見を用いて実排水・実廃液を模擬した複合成分が含まれるスラリーの処理についても検討を行う。 実験に用いる試料は、粒子については昨年度使用したアルミナ粒子の他に、密度や表面電位の特性が異なるシリカ粒子やポリスチレンラテックス粒子等の使用を計画している。これらの粒子はアルミナ粒子同様、様々な粒子径のものが市販されているため、入手が容易であるという利点がある他、ポリマーとの組み合わせによってはポリマーが粒子表面に吸着しない場合もあり、より詳細な凝集条件の確立に的確であるといえる。ポリマーについては、分子量の異なるポリカルボン酸アンモニウムの他、対イオンの異なるポリカルボン酸や解離時のイオンの正負が異なるポリエチレンイミン等を用いることで、幅広い条件を検討する。 実排水への適用実験については、アルミナ、シリカ、ポリスチレンラテックス粒子を混合した複数成分のスラリーをモデルとし、pH調整を行うことでそれぞれの粒子の表面電位を変化させたスラリーに圧力応答性ポリマーを添加することで、複数成分スラリー中から単一成分のみの凝集が可能かを検討する。これにより、廃液からの有価物の回収への適用可能性が検討できる。ただし、粒子とポリマーの組み合わせによってはポリマーが吸着しない場合も考えられるため、スラリーの凝集にはポリマーの吸着が必ずしも必要なのかを検討する必要がある。仮に必要であった場合は、ポリマー濃度を上げたスラリーに圧力を印加し、コイル状に収縮したポリマーによる枯渇凝集作用を利用した凝集の可能性を検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該研究費が生じた状況として、当初購入予定であったレーザー光源について、昨年度の研究開始直後に研究室内の他の研究で購入することになったため、本研究では購入を見送ったことおよび、当初はナノ粒子スラリーの凝集が発生しにくく、様々な種類のポリマーを購入、実験が必要となることを想定していたものの、実際には想定よりも早く凝集する条件を明らかにすることができたため、ポリマーと粒子を固定して凝集条件の確立に重きを置いたため、購入した消耗品が少なくて済んだこと、また、研究がスムーズに進んだことで、謝金の支出が不要となったことが挙げられる。 当該研究費及び今年度の研究費については、昨年度作製した圧力印加装置をスラリーの様子を容易に観察できるように改良するために使用する他、昨年度の結果を受けて、より幅広い条件で実験を行い、様々な状況に対応できる凝集条件の確立のため、今年度は実験に用いる試料としてアルミナ粒子の他に、シリカ粒子やポリスチレンラテックス粒子等を、ポリマーとして分子量の異なるポリカルボン酸アンモニウム、対イオンの異なるポリカルボン酸、ポリエチレンイミン等の様々な実験試料の使用を計画しているため、これらの購入に使用する予定である。 また、研究がおおむね順調に進展しており、良好な結果が得られていることから、学会や産学官連携の場だけでなく、企業主催のシーズ発表や各種セミナー等に積極的に発信するため、国内外の様々な発信の場に参加するためにも使用する予定である。
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